【コラム】移民の送り出しと受け入れの世界的動向 独立ページ表示


  グローバリゼーションにともなって移民の動きが世界規模で拡大したが、それを分かりやすく統計データで示すには工夫がいる。世界銀行の世界開発報告書の2023年版にはコンパクトにこれを示す統計データが掲載されていたのでここに紹介しよう。

 移民の動きは送り出しと受け入れの両面から見る必要がある。移民の送り出しの指標としては「海外移民比率」、移民の受け入れの指標としては「移民人口比率」がある。いずれも移動のフローではなく移動結果を示すストックの指標であり、単年度の動きではなくその時点の水準を示しているので長期的な変化を理解するのに適している。

 世界全体の値の推移をたどることも重要だが(例えば移動率の推移を追った図録1171d)、移民の動きの実態を鮮明に理解するには、低・中・高の所得グループに世界を区分し、それぞれの動きを追った方がよい。上図にその結果を掲げた。

 まず、どのぐらいの人が海外で暮らしているかという「海外移民比率」であるが、そもそも、国境をまたぐ人の移動は低所得国や中所得国より高所得国の方が多かった。1960年、1990年には、高所得国の方がその他よりずっと海外移民比率が高かった。外国語を喋れたり、国際的な交通手段を利用する資金があったりするのは所得の高い国の国民だったのである。

 ところが2020年にはそれが一変している。低所得国の海外移民比率は1990年の2.9%から5.1%へとほとんど倍増し、同比率が横ばいの高所得国の4.0%を大きく上回るに至ったのである。低所得国の働き手が海外出稼ぎをしたり、海外移住をするのが普通の時代となったことがうかがわれる。

 次に、国内に外国生まれで定義される移民がどのくらいいるかという「移民人口比率」を見てみよう。

 こちらも以前は高所得国グループの方が、低・中所得国グループより、相互に自由に移住しあい、他国で暮らす人が多かったため、1960年には4.9%とレベルが高かった。ところが、近年は、相互というより他の所得グループからの移民流入が多くなり、さらにこの値が、1990年には7.8%、そして2020年には14.1%へと3倍化している。一方、低・中所得国では移民人口比率はむしろ低下しており、最終的に高所得国ばかりが移民を引き受けるようになった状況が明らかである。

 なお、高所得国の移民人口の多くが、外国生まれとはいっても、すでに移住先の国の国籍、市民権を取得して帰化している点にも注意が必要である。

(2023年8月18日作成)