2021年の6月以降本格化したワクチン接種の進展は、期待されたように感染者数の低減にはむすびつかず、むしろ感染者数の激増を生んでいる状況を示すため、欧米や日本の各国におけるワクチン接種率と感染者数の再拡大の程度との相関を示した図を掲げた。

 この図(少し異なる描き方だが)に加えて、内外の感染状況の推移図から、その点を明らかにした記事をプレジデントオンラインに掲載しているので、あわせて参照されたい(ここ)。

 2021年6月以降、増加傾向をたどっている日米欧における外出の動きはアップルデータによる図録6388参照。

 欧米各国では、6月以降、ワクチン接種の進展とそれが功を奏したと見られる死亡率の低レベル維持を受けて、コロナ対策の行動規制の緩和に相次いで乗り出している。死亡率が上昇しないのに、政府としては、日本と比較してもかなりのストレスを国民に与えてきたこれまでの行動抑制策は維持しがたくなってきたのが理由だろう。

 一方、民間での気のゆるみを象徴的に示した映像としては、7月上旬にはサッカー欧州選手権でイングランド代表の試合があるたびに、マスクなしのサポーターらがロンドンの一部の街頭を埋め尽くす状況が日本でも報道された。

 感染者数が急増する中、死者数は比較的低く推移しているため、ワクチン接種の進展が奏功していると判断した英政府は7月19日にイングランドで残っていた行動規制をほぼすべて撤廃した。この英政府の判断に対し、世界各国の専門家が連名で英医学誌ランセットに「危険で非倫理的な実験に乗り出している」と批判する書簡を寄せ、再考を促したという(毎日新聞2021.7.31)。

 国民意識を考慮した政府の政策に対して専門家が苦言を呈するという構図はわが国でも何回も目にしているものだ。

 これまでかなり厳しい行動抑制を国民に強いてきた政策は、ワクチン接種の進展と死亡者数の低減を受けて維持しがたくなっているのが実情であろう。

 国民もワクチン接種が進み、もうすぐコロナを克服できると安心し、大いに気が緩み、それが感染爆発につながっていると考えられる(国民の感染不安度の推移を見た図録1951p参照)。

 図からは、ワクチン接種が進んでいる国ほど大きな感染再拡大に見舞われていることが見て取れる。ワクチン接種が2割以下と余り進んでいないロシアやウクライナの感染拡大は人口10万人当たり週100人増以下のレベルにとどまっているのに対して、3割台の接種率のオランダ、スペインでは350〜400人増、ワクチン接種約5割の英国、約6割のイスラエルでは400〜450人増の大きな感染拡大が起っているのである。

 この相関図における日本の位置としては、おおむね、右上がりの曲線という傾向線上にあり、拡大幅は100人未満とそれほど大きくないものの、もともと人口当たりの感染率が低かったので、過去の波を超える高いレベルに至っていると理解できるのである。

 欧米や日本の最近の感染拡大については、感染力の高いデルタ株の浸透によると見なすのが各国でも通例となっているようであるが、ワクチン接種の進んでいるほど感染が大きく拡大しているというこうした事実を知ると、むしろ、行動抑制の解除につながるワクチン接種そのものが真犯人だと考えざるを得ない。

 デルタ株が感染爆発の真犯人とされているのは、報道上で安直に枕詞にしやすい点のほか、国民を行動抑制へ向け説得できていないというコロナ対策の不備をつかれたくないため、国民の心理的な要因をあげたくない政府の意向も与っていると見ざるをえない。

(2021年8月9日収録、8月13日イスラエル追加、8月13日感染拡大の指標を感染者数の倍率から人口当たりの感染者数増に変更、8月17日感染拡大幅算出の終点を7月末から8月15日に変更)


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