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国民評価で振り返る安倍政権のコロナ対策

 全世界を覆っている新型コロナの感染拡大による人的被害については、図録の人口10万人当たりの感染者数や感染死亡者数に見られるように、各国で感染状況が大きく異なっている。

 日本の10万人当たりの感染者数は31人と最大の米国の1,396人の2.2%、感染死亡者数は0.8人と最大のベルギーの84.7人の0.9%と格段に少なくなっている。取り上げた欧米を中心とする先進国14カ国中の順位は感染者数でも感染死亡者数でも13位と韓国を除けば最少である。

 図録には、また、ピューリサーチセンターが6月から8月にかけて各国で行ったコロナ対策に対する国民評価についての意識調査結果を掲げた。

 これを見ると、否定的評価が肯定的評価を上回ったのは、英国と米国だけであり、その他の諸国では、肯定的評価が否定的評価を上回っていた。スウェーデン、イタリア以下8カ国では感染の深刻さにもかかわらず7割以上の国民が肯定的評価を下している。いろんなドタバタがあっても国はよくやっていると考えているのである。この結果を報じたピューリサーチセンターの報告書の表題が「先進14カ国ではほとんどの場合新型コロナに対する国家的対応を承認する結果」となっていることもうなずけるのである。

 また、もう1つ気がつくのは、感染者数や感染死亡者数が多い国ほど、おおむね国民評価は低いという点である。感染者数が1位の米国と感染死亡者数が2位の英国では否定的評価が多いのに対して、欧米の中で感染者数、死亡者数が少なかったデンマークやオーストラリアでは95%前後の国民が国はよくやっていると評価している。

 ところが、例外となっているのは日本である。

 感染者数や感染死亡者数は最低レベルであるのにもかかわらず、肯定的評価は55%と少なく、否定的評価がフランスや感染死亡者数1位のベルギーを上回っていさえするのである。感染や人的な感染被害についての結果を出しているのに国民の評価はずば抜けて低いのが印象的である。災害など不可抗力に起因する国家的危機に対しては、国民が一致団結し国への評価も高くなる傾向があるというのに、日本はそうなっていないのである。

 欧米のようなロックダウン(都市封鎖)などによる強制的な措置を取らずに、あくまでも自粛レベルにとどまった日本の新型コロナウイルス対策について、それにもかかわらず日本の感染者数や感染死亡者数が世界の中でも最低レベルである点を、当初、安倍政権は日本のコロナ対策の勝利と自賛していた。

 しかし、欧米諸国と比較して、日本ばかりでなく中国や韓国も人口当たりでの感染状況が低く、政策の妥当性が感染状況の違いを生んでいるかどうかは怪しいと大方が見なすようになった。さらに、ノーベル賞受賞者として国民の尊敬を集めている京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏が、感染状況の軽微さには何か日本特有の理由があるのではないかと、自身が開設しているコロナの情報サイトでこれを「ファクターX」と名付けるに及んで、ますます、対策の効果だと手放しで主張するわけにはいかなくなった。

 一方、安倍政権のコロナ対策については以下の点で批判が根強い。
  • 首相判断による全国全校休校要請など実際の効果というより受けを狙ったとも見える専横措置が目につく。
  • PCR検査が諸外国と比べて少ないレベルに止まっている理由や責任に対する説明が不十分だった。
  • アベノマスクとのちに揶揄されることになる全戸2枚の布マスク配布計画のように実施が大きく遅れ、配布の意義が霧消した事例、あるいは第2波到来の前に計画したGoToトラベル・キャンペーンの実施を第2波が到来したのにむしろ早めて実施した事例など、時宜にかなった対策とは言いがたいチグハグな政策運営に陥る例が散見される。
  • コロナ対策の司令塔となるべき2閣僚に、この分野に、特段、通じているわけでもない適切とはとても思えない政治家を側近だからという理由だけで登用した結果、説得力のない説明、あるいは指導力や機動性を欠く政策対応にむすびつき、国民の信頼を得られない結果となった。
  • 実質GDPの後退などにも見られる通り、感染被害が軽い割に、経済へのマイナスの影響を有効に抑えられなかった。
 こうした政策対応の不適切さが災いして、人的な感染被害が他国と比べて軽微であり、感染対策や感染予防と経済の両立に関してもそう間違ったことをしてないと見られるにもかかわらず、ピューリサーチセンターの調査結果に見られるように、国の対応への国民の評価が他国と比較して格別に低い結果となったのだと思われる。

 おそらく、安倍首相の健康上の理由もひとつの理由となってこうした事態を招いたのであり、それがご自分でも分かっているだけに、2020年8月28日の辞任表明に至ったのだと推測される。

 表示選択で英エコノミスト誌が掲げたWHOのパンデミック宣言以降の各国政治指導者の支持率推移を示した(コロナ以外の対外紛争等の際の支持率推移は図録5208参照)。

 これで見ても、世界の多くの指導者の支持率がパンデミックという国内危機に際して大きく上昇する中、安倍首相の支持率は低迷している点が目立っている。安倍首相の支持率推移が、感染拡大に対し「余り気にしなくともよい」という指導者らしからぬ態度を示し不評を買った米国トランプ大統領やブラジルのボルソナーロ大統領並みである点が印象的である(注)

(注)多くの政治指導者がコロナの感染爆発(パンデミック)で支持率を上昇させている点についてはアカデミズムが「旗の下結集効果」と呼んでいるメカニズムによるとこの図を作成した英タイムズ誌(2020年5月9日号)は報じている。他方で「余り支持率が上がらない4人の指導者については難癖がついてしまっている。日本の感染拡大対策はほとんどの国と比較してうまくいっているが、近隣のアジア諸国と比較するとそうではない。米国、メキシコ、ブラジルの大統領については、すべて、コロナへの恐れが膨らみすぎたことを示している」。

コロナ感染症への中国、米国、WHOの対処についての評価

 ピューリサーチセンターの調査では、各国国民に自国のコロナ対策ばかりでなく、中国・米国・EU・WHOのコロナ対策への評価も聞いている。下図には、この結果も掲げた。

 米国では、自国よりも中国の不始末を指摘する声の方が大きい点が特徴となっている。トランプ大統領の主張が影響している可能性がある。というより、自国民の感覚をトランプ大統領が代弁してるだけなのかもしれない。

 その他の国では、米国のコロナ対策への否定的評価が中国のそれより大きくなっている。ただし、日本では両者が同数となっている。

 自国のコロナ対策への各国民の自己評価については、上述の通りである。

 WHOのコロナ対策への否定的評価が各国かなり大きい点が目立っている。欧米では米国とイタリアで44〜45%と大きい。米国はもともと国際機関への不信が大きいが、トランプ大統領は、今回、特にWHOへの批判が手厳しい。自国の不始末をWHOに転嫁している風がないとはいえない。

 しかし、不思議なのは、日本と韓国はさらにそれらを上回ってWHOへの悪評が大きい点である。何故不思議かというと日本と韓国はコロナ被害が欧米に比べて比較的小さいので、WHOの不始末をあげつらう必要も無い筈であるからである。両国民が米国国民よりもトランプ大統領の主張に賛同しているのはマスコミの報道の仕方に影響されているのではなかろうか。

 なお、韓国は自国のコロナ対策への否定的評価がかなり小さく、それとは対照的に、その他の中国・米国・EU・WHOへの否定的評価が各国の中でそれぞれ最も%が高くなっており、自国以外は全否定の様相を呈している点が目立っている。


 取り上げた国際世論調査の対象となっている国は、英国、米国、スペイン、日本、フランス、ベルギー、スウェーデン、イタリア、韓国、オランダ、ドイツ、カナダ、オーストラリア、デンマークの14か国。

(2020年10月9日収録、11月20日世界の政治指導者の支持率推移、11月25日同(注))


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