東日本大震災にともなう福島第一原発の原子力事故以来、原発政策の見直しに向けての潮流が世界全体に広がっており、当然のことながら我が国の国内政策についても従来の推進政策の見直しが議論されている。

 ここでは、事故から5カ月を経過した時点でNHKが行った原発政策にかかわる意識調査結果を時事トピックスの図録とした。

 原発の数については、”今後3年の間では”、「減らすべきだ」が50.8%と過半数を占め、多数意見となっている。「すべて廃止すべきだ」は10.8%と「現状を維持すべきだ」の31.1%よりかなり少なくなっている。

 ところが、”将来的に”では、「減らすべきだ」が43.4%で最も多いのは、変わらないが、「すべて廃止すべきだ」が33.1%と次に多い意見となり、「現状を維持すべきだ」の15.1%の2倍以上となっている。

 将来的には「減」原発、あるいは「脱」原発の方向に向かうべきだとする意見が多数を占めているといえる。

 日本はアジア大陸の沖に浮かぶ四方を海に囲まれた海洋国であり、それゆれ潜在的に活用可能な海洋資源が豊富であり(図録9410)、正面を日本列島に阻まれて利用可能な海洋資源に制約のある中国や韓国からはやや不公平の感を抱かれていると考えられる。一方、こうした立地は、同時に複数の海洋プレートの潜り込む位置に日本列島が置かれており、我が国が地震大国となっていることにも結びついている(図録4372、図録4380)。立地上のプラスとマイナスはどちらか一方だけにするという訳にはいかないのである。私の意見としては、原子力発電は人類の可能性として地震の少ない国に任せ、そのための協力もしながら、国内では、原発開発よりむしろ、海上輸送によるエネルギー調達と海洋エネルギー開発に力点を置くというのが常識的な判断なのではないかと考える。

 次に、原発政策の見直しについての意見を、代替発電源と負担許容電気料金値上げ額についてきいた結果を以下に掲げた。



 代替発電源については、「再生可能エネルギー」が70.2%を最も期待が高いエネルギー源となっている。「天然ガス」についてもっと期待できるのではないかをいう当図録の見解については図録4118参照。

 負担許容電気料金値上げ額については、「値上げは認めない」は10.7%と約1割であり、何らかの値上げは許容しようと言うのが多数意見である。しかし、許容額については、「千円未満」が27.7%で最も多く、「千円」、「2千円」が21.7%、18.6%で続いており、そう大きな値上げは想定していないことが分かる。

 再生可能エネルギーに転換していくとすると、実際のところ、いくらぐらいの負担増になるかを国民の前に提示しながら議論を深めていく必要があろう。

 さらに、再生可能エネルギーのコストを電力料金へ上乗せしていく場合、資金力ある家庭の快適エコ生活を資金力のない家庭の負担で進めていくことの公平性についても議論が必要である。

 以下は東京新聞の読者欄「発言」に寄せられた東京都三鷹市の主婦(73歳)の意見である(2011.5.28)。

「 太陽光促進負荷金なぜ

 四月の電気の検針票に「太陽光発電促進付加金」というものが「二円」計上されていました。うっかり振り込んでしまってから東京電力に問い合わせたところ「お客さまに代わってソーラーパネルを載せているおうちの余った電気を買い上げた費用」とのことでした。

 パネルを載せるのは個人の自由ですが、なぜその余った電気の費用を負担しなければならないのか納得がいかないので、今月は先月の分と合わせて「四円」を差し引いて振り込みました。すぐに東電から電話があり「期日までに支払わないと電気の供給を止める」と言われました。

 来年度から「再生可能エネルギー促進付加金」という名目でさらに負担が増えるそうです。ほとんどの人は口座からの自動引き落としで、自分の口座からこのようなものが引き落とされていることに気付いていないのではないでしょうか。

 私は納得できないので電気を止めてもらうことにしました。支払い期限後の電気なしの暮らしをどうしたものか、思案中です。」

 法律で決めたのだから守れというような単純な問題ではないと考えられる。

【コラム】「減」原発か「脱」原発か



 上記図録では、<当面>は「減」原発、<将来的>に「脱」原発もという意識が示されていた。NHKは8月調査の前後に、<今後の意向>というかたちで同じ設問の意識調査を行っているので結果をここに紹介する。

 2011年の夏は福島第一原発の事故を受けて深刻な節電生活に全国的に突入した。「経済産業省によると,2011年夏のピーク時の最大使用電力は,東京電力管内では2010年と比べ18.0 % 減少, 東北電力管内では15.8%減少し,政府の節電目標の15%を達成した。その他の電力会社の管内でも6.9%〜11.8%の節電が達成された。夏の節電は全国で取り組まれ,結果的に大規模停電や計画停電にはならなかった。」(図の(資料)と同じ)

 こうした経験を経て、「不便な電気削減生活」に対しては、「反対」する人が6月から10月にかけてやや増加した。にもかかわらず、原発を「すべて廃止すべきだ」とする脱原発志向は同期間に21.4%から24.3%へと増加している。決定的な不信感に裏づけられ、国民の脱原発意識が根強いことがうかがわれる。ちなみに民主党菅政権は8月に退陣しており、これに代わった野田政権はむしろ原発に関して中立的と思われるので政府の意向はこうした意識に影響していないであろう。

 2012年3月にも同じ設問での調査が行われた。原発を「すべて廃止すべきだ」とする脱原発志向は28.4%とさらに増加している。

 その後を含めた時系列変化については、図録j016参照。

(2011年8月29日収録、2012年2月16日コラム追加、4月10日更新)


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