日本人は特定の宗教を信仰してはいないという意味では無宗教である(図録9460参照)。しかし、宗教的なものに親しみがないという訳ではない。

 元旦には神社仏閣に初詣をする。葬式は仏教形式で行う。結婚式やクリスマスはキリスト教式で祝う。これをもって日本人は特定の宗教を信じていない無宗教人間だと見なすか、あるいは、何でも宗教的なものには親しみを感じる宗教的な人間だとみなすかは、見方次第だろう。

 ここでは、文明化される以前から人間が抱いていた素朴な宗教心が日本人には強いことを示すため、宗教をテーマにした2008年のISSP調査の結果から、「祖先の霊的な力」があると思う人の比率を国際比較した図を掲げた。

 これを見ると、日本は台湾、南アフリカ、トルコに続いて、「祖先の霊的な力」があると思っている人が多い。46.9%とほぼ半分の人がそう思っているのである。

 大陸別に見ると、アジア、アフリカ、南米の国民はこうした霊力があると思っている者が多いが、西欧の国民は概してそうした霊力があると思う者は少なくなっている。

 ISSP調査は各国の調査研究機関が同じ調査票を使い国際的に協力して行っている共同調査であるが、日本の担当機関はNHKの世論調査を実施しているNHK放送文化研究所である。この研究所の月報はISSP調査の結果を毎回紹介しているが、2008年調査の結果紹介記事から、一般的な信仰心と祖先の霊的な力があると思っているかという宗教心の2側面について、男女別・年齢別に整理した図を以下に掲げた。

 これを見ると興味深いことに、キリスト教や仏教などの宗教を信じているという一般的な信仰心は高齢者の方が多く抱いているのに対して、祖先の霊力への素朴な宗教心は若者の方が多く抱いていることが分かる。なお、男女別にはいずれの宗教心も女性の方が男性より多く抱いている。

 素朴な宗教心である「祖先の霊的な力」があると思っている人は高齢者では3〜4割であり、30代の女性が7割近くを占めている。これに対して、一般的な信仰心では30代の男女は60歳以上の男女の半分かそれ以下しか信仰をもっておらず、極めて対照的なパターンとなっている。少なくとも宗教心に関しては、高齢者は西欧的であり、若年層は非西欧的なのである。なお、同じ宗教心の2側面を図録3971aでは「日本人の国民性調査」によって見ているので参照されたい。


(2015年1月1日収録)


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