文明国の国民は皆、人間が動物から進化したと考えていると思ったら間違いである。

 図には、10年以上前の調査だがISSP調査における世界各国の国民の進化観に関する設問の回答結果を掲げた。

 米国人の中で、人類は動物から進化したと思っているのは約4割と、図に掲げた27の国・地域の国民の中で最も少なく、また、そうではないと思っているものが46%とこれを大きく上回っている。米国人は神仏・霊魂・死後の世界を信じる者が多いスピリチュアルな国民であるという背景があろう(図録9522、図録9525)。

 同じように前者を後者が上回っているのは米国人の他ではキリスト教徒の多いフィリピン人のみである。キリスト教の考え方がやはり影響しているといえよう。

 このほか、人類は動物から進化したと思っている者が少ないのは、ラトビア、ロシア、イスラエル、メキシコ、ブルガリアなどである。旧東ドイツの住民と同様に社会主義思想の影響で宗教的な反進化論から離脱したかに思われるロシアで、実は、進化したと思っている人間が米国人なみに少ないのは意外である。

 人類は動物から進化したと思っている者が多いのは、旧東ドイツが81.4%と最も高く、これに、デンマーク、スウェーデン、日本、英国がこれに続いている。

 日本の意識調査で進化が取り上げられることはまずないといってよいが、米国では大きな関心事ということで、インターバルをおいて調査されている。以下には、この点に関するピュー・リサーチ・センターの2時点にわたる調査結果を掲げた。


 これを見ると、設問の仕方がISSP調査とは異なるのでやや結果の数字は異なる。人や動物で進化が起こっていると考える者は、人類が動物から進化したと考える者より多いのである。生物の進化は化石の証拠が年代ごとに系統的に並べられることから否定しがたいが、だからといって、人類が動物(サル)から進化したという証拠はないということなのであろう。

 時系列結果を見ると、驚いたことに、米国人の中では、2009年から2013年にかけて人間や生き物が進化してきていると思わない者が増えている。

 政党支持層別に見ると共和党支持層では、変化が激しく、進化を信じるものと信じない者とが逆転している。保守化傾向が大きく進んだといえよう。ところが、一方、逆に、民主党支持層では、信じる者が増え、信じない者が減っている。すなわち、国民が進化を信じるかどうかをめぐって反対方向へ二極化してきているといえよう。これは、同性愛に対する考え方でも似たような傾向が見られたが(図録2783、図録8807参照)、同性愛を認める方向で二極化しているのに対して、進化観の場合は全く逆方向へと意見が分かれている点が印象的である。

 共和党支持者と民主党支持者では対照的な考え方・感じ方をもつ点について東京新聞のコラム「筆洗」が次のように記している(2016.1.27)。「民主、共和両党びいきがはっきりしている米国では、あらゆるものを「民主党っぽい」とか「共和党っぽい」と区別したがるそうだ。コーヒーにさえ「っぽい」がある。共和党支持者は地元のコーヒー店に通い、民主党支持者はスターバックス。自動車はどうか。知り合いの米国人に聞けば、最も民主党っぽいのは燃費のよいトヨタのプリウスで、最も共和党っぽいのは米フォードの巨大で頑丈なピックアップトラックやマスタング。鵜呑みにはできぬが、そういうイメージがあるらしい」。

 趣味の違いならともかく、進化観のようなものまで二極化が進んでいるのには驚く。日本人の感覚では信じられないような、あるいは西欧人的な感覚でもおそらく信じられないような考え方の変化が米国人の中で起こっているようだ。これに加えて、もしロシアも米国人的な動きをたどるとしたら(少なくとも同性愛については西欧と逆の方向)、世界全体が二極化していくことにならないだろうか。

 米国における二極化したものの見方の対立を「文化戦争」と呼び、「米国が二つの異なる文明化プロセスをたどった歴史の産物」として解き明かしたスティーブン・ピンカー(「暴力の人類史」)の説については図録8809参照。

 冒頭の図で取り上げた27の国と地域の名前を、図の順番に掲げると、以下の通りである。米国、ラトビア、ロシア、フィリピン、イスラエル、メキシコ、ブルガリア、北アイルランド、チリ、スペイン、カナダ、オランダ、アイルランド、ニュージーランド、フィンランド、スロベニア、ポルトガル、オーストリア、チェコ、ノルウェー、旧西ドイツ、スイス、英国、日本、スウェーデン、デンマーク、旧東ドイツ。

(2014年8月28日収録、2016年1月28日東京新聞コラム引用)


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