宗教法の社会適用についてのイスラム教徒の考え方は国や地域により大きく異なることが米国ワシントンに本部を置く非営利機関Pew Research Centerによる調査によって明かとなった。

 トルコの長期単独政権を率いるエルドアン首相が、権威主義的な態度で、酒の販売規制や人前でのキスの禁止、子供を3人以上作ることの推奨などの施策を打ち出したのに対して、軍事クーデターやクルド人テロが起きた1980年代を知らず、現在の安定した政権下で育った「90年世代」と呼ばれる若者層を中心に反発がひろがり、首都アンカラでは2013年5月25日にイスラム教に基づくモラルの押し付けに反対しようと集まった男女200人がキスをする集会をイスラム過激派が襲撃する事件が起きた後、トルコの最大都市イスタンブール中心部のゲジ公園で反政権デモが大きく拡大して世界中で大きく報道される事件にまで発展した。「デモは5月27日、再開発計画により公園の樹木を伐採した行政当局に対し、環境保護を訴える市民が抗議する形で始まった。警官隊の強制排除を交流サイト「フェイスブック」などで知った若者ら数万人が駆けつけ、一部の環境保護運動をのみ込むように拡大。さらに世俗派の野党支持者や労組など既存の「反政府勢力」が後発的に加わった。」(毎日新聞2013.6.16)

 こうした事件はイスラム国の国民の中にも国によりイスラム戒律への許容度について大きな温度差があることを理解した上で判断することが望ましい。

 図には、各国のイスラム教徒がイスラム法(シャリーア(注))の適用についてどう考えているかを示した。調査対象国はイスラム人口の多い国が選ばれている(図録9034)。

 イスラム教を国の公の法律にすることに賛成しているイスラム教徒は、アフガニスタンでは99%、イラクでは91%、パレスチナでは89%、マレーシア、ナイジェリアでは86%とほとんどか多数を占めているのに対して、アルバニア、トルコでは12%、カザフスタンでは10%、アゼルバイジャンでは8%と少数派となっている。

 他のイスラム教適用の項目への賛成の割合も国別にほぼ同様の傾向にあるが、項目によっては国別の考え方が必ずしも同一ではない。

 家族や財産のトラブルを宗教法で裁くべきかどうかでは、エジプトやヨルダンでは90%が賛成しているがイラクやパレスチナでは8割以下となっている。

 刑罰に関しては、イスラム法の刑罰の適用に関しては、以上2項目より、厳格適用はひかえるべきだとする意見も多いようである。特にイスラム教を棄てた者に対する死刑については、賛成する者が、他の3項目と比較して少なくなっている。それでもエジプトやヨルダンでは8割以上が賛成しており、厳格適用の考え方が強い国もあることがうかがわれる。

(注)シャリーア(sharia)

「シャリーア、すなわちイスラム法は、結婚、離婚から、相続、契約、刑罰まで、ほとんどすべての生活局面についての道徳的、法的な規律を有している。広義のシャリーアはイスラム教の聖典(コーラン)や預言者ムハンマドの言行・範例(スンナ)に記述されている倫理的な規則に関するものである。これらの規則の条文化や解釈という後代の行為からもたらされたイスラム法学はフィクフ(fiqh)として知られている。ムスリムの学者や司法家はシャリーアとフィクフの区分について、他のイスラム法の諸局面についてと同様に議論を継続している。」(Pew Research Center, "The World’s Muslims: Religion, Politics and Society", 2013年4月)


 なお、この図録は、The Economist May 4th 2013の記事(「皆同じではないイスラム世論」Muslim opinion: Minds unmade)の図に刺激を得て作成されたものである(データの取り方は変更)。

 図に掲げた21カ国を図の順番に記すと、アフガニスタン、イラク、パレスチナ、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、エジプト、インドネシア、ヨルダン、チュニジア、ロシア、キルギス、レバノン、タジキスタン、コソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、トルコ、カザフスタン、アゼルバイジャンである。

(2013年5月27日収録、6月16日トルコのデモ拡大の記述を追加)


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