華僑・印僑など移民社会が世界経済に果たす役割が大きくなっている。英国エコノミスト誌は、これについて"The magic of diasporas"という特集を組んでおり(The Economist November 19th 2011)、図録のデータはここから取った。

 かつては、中国経済やインド経済は閉鎖的であったので、海外へ移住した華僑・印僑(国籍を移住先に移した者<華人>を含めてこう呼んでおく)は、海外拠点相互のネットワークで満足していた(東南アジアの華僑、アフリカの印僑)。

 しかし現在ではこうした状況は大きく変化し、「海外中国人は世界を中国にむすびつけ、中国を世界にむすびつけている。インドについても同様である。」(The Economist 同上号、以下同じ)

 エコノミスト誌は、象徴的な事例として、インドネシアで、戦後、自転車商から身を起こし、銀行を買って、コングロマリットの力宝集団(Lippo Group)をつくりあげた李文正(Mochtar Riady)の活動を紹介している。李家はインドネシアから香港、シンガポールに活動の場を広げたが、1980年代には米国に移り、環太平洋貿易の中国系米国企業とつながった。インドネシアが中国と国交を回復した1990年以降、李氏は中国を車で8カ月かけて回り、新しい事業チャンスを嗅ぎつけ、また新しい友人関係をつくりあげた。不動産からスーパーマーケットや新聞に至る範囲に権益をもつ力宝集団は、欧米の多国籍企業がなかなか浸透できない地方都市の様々な事業に投資しつつある。ハーバードビジネススクールの力宝集団研究者は「ネットワークが事業戦略に役立っているというより、ネットワークこそが事業戦略となっている。同族のつながりが起業の跳躍台として機能しているのである」といっている。

 図をみれば、中国については、中国系人口の多い香港や台湾、シンガポールからの直接投資が多くなっていることが分かる。香港や台湾は中国の一部ということになっているが、財産権的・法的には、中国系米国人や中国系シンガポール人と同様の立場で動くことができている。

 投資余力がこれら3国より大きく、対中貿易も大きい日本、米国、韓国は、これら中国系3国の後塵を拝すそれぞれ4〜6位の地位に甘んじている。

 香港については、特殊な事情が働いて直接投資額が大きくなっている。すなわち、中国本土の事業家が中国政府の海外投資優遇策を利用するため香港でマネーロンダリングを行っている場合があるのである。「しかし、中国系の人間が、対中投資に関して他の者よりずっと自信をもって行動していることは明らかである。彼等は現地ビジネスを理解している。また誰が信用できるかも知っている。」

 「海外中国人は世界を中国にむすびつけ、中国を世界にむすびつけている」とは、欧米や日本の資本が、華僑資本とタイアップして対中投資を進めていることを意味している。NHK海外ネットワーク(2011年11月26日放映、紹介HP)は「特集:中国での成功の秘けつ〜台湾企業に学べ」で日本のアニメ制作会社、和食レストランが中国進出に当たって台湾企業と提携している事例を紹介している。アニメでは、2010年に結ばれた中台経済協定(FTA)によって得た台湾企業の貿易優遇策を利用すること、また、和食レストランでは、中国市場への参入に不可欠な中国人と中国市場への理解を台湾企業から得ることが日本側のねらいとなっている。

 かつて海外進出を積極的に進め、本部を上海に移すなど勢いのある海外展開を示していた元静岡地元スーパーのヤオハン(1997年倒産)の経営担当者が「やっと華僑資本と繋がりができた。ユダヤ資本には及ばないが」と言っていたのを思い出す。台湾資本に所有財産の国際移転を保証することと引き替えに台湾の中国への併合が裏で決定されているといううわさも数年前に聞いたことがある。経済規模が巨大となった東アジア経済圏をめぐる国際資本の動きは一筋縄では理解不能という印象が強い。

(2011年12月3日収録)


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