ついにGDP世界第2位となった中国の経済力の躍進に対しては、中国における販売市場や投資市場の拡大という面からこれを歓迎する見方と中国の不公正な貿易行動で国際秩序が乱れたり、中国との貿易競争や中国からの直接投資の拡大で国内の産業秩序が乱れ、失業も拡大するという側面からこれを否定的に見る見方とがある。

 図には、BBCが行った国際世論調査の結果から、中国の経済力躍進に対する世界の見方を掲げた(軍事力増強については図録8194参照)。

 まず、2005年と2011年と比較して、否定的な見方がどう推移したかを示した図を掲げた。こうした時系列データが得られる国は先進国が中心であるが、10カ国すべてで否定的に見る人が増加しているのが目立っている。

 2011年に中国の経済力躍進を否定的にとらえる人が57%と最も多いのはイタリアである。イタリアでは中国人の起業が増えており、これがイタリア人の得意な分野を掘り崩しているため特別に反感が強いとも見られる(巻末【コラム】「イタリア人のお株を奪う中国人移民」を参照)。

 イタリアに続いて、カナダ、米国、フランス、ドイツといった欧米諸国では、中国の経済力躍進に否定的な者が半数を越えている。10カ国の中で日本は、否定的な見方をする人が30%と最も少ない。これは、貿易や投資で日本経済が中国経済の成長から裨益している側面が大きいからだと考えられる。

 2011年に関しては、25カ国の調査結果が得られるので、これを2番目の図に示した。この図では、肯定的と否定的の割合を両方掲げた(どちらともいえない・無回答の割合も細線で示した)。

 こちらを見ると先進国と異なり、中国の経済力の躍進に対して、アフリカ諸国や南アジア、東南アジア諸国などで肯定的に見る人の割合が否定的に見る人の割合を大きく上回っていることが分かる。肯定的とする割合が否定的とする割合を上回っているのが17カ国と逆に下回っている7カ国の2倍以上となっているのである。つまり、世界全体で見れば、結構、中国の経済力躍進を歓迎している傾向が強いのである。

 第1図では、韓国の方が日本より否定的に見る人が多かったが、肯定的に見る人も韓国の方が多く、差し引きすると日本も韓国もほぼ肯定、否定が半々である点で共通している(日本はこうした国際意識調査では「どちらともいえない」と答える者が非常に多く、逆に韓国では非常に少ないのが通例である)。中国の隣国である日韓は、中国との関係における経済的利益の側面で似た立場にあるといえよう。

 なお、ここで取り上げた25カ国は、肯定マイナス否定の大きい順に、ナイジェリア、パキスタン、ケニア、ペルー、ガーナ、インドネシア、インド、フィリピン、エジプト、南アフリカ、トルコ、ブラジル、スペイン、英国、オーストラリア、ロシア、日本、韓国、ポルトガル、フランス、米国、メキシコ、イタリア、カナダ、ドイツである。

【コラム】イタリア人のお株を奪う中国人移民

 イタリアへの移民の増加はアフリカや東欧からだけにとどまらず中国人移民も増加している。

 フィレンツェ市から約16キロ離れた古都プラートはネットワーク型の産業構造をもつ高級繊維製品の産地として栄え、サードイタリアとして名高かった。ここで、多くが不法滞在者の中国人移民が過去20年間で激増し、現在は4万人、現地人口の約4分の1を占めるに至り、欧州最大とも言える中国人密集地になっている。「欧州繊維業の中心」は傍若無人な中国系移民により安価な衣類の加工基地へと変貌しているというのだ(epochtimes.jp 2010.2.18)(図録1172参照)。

 ローマでおしゃべり:移民編/2「中国人起業に脅威と偏見」(毎日新聞2010年11月17日)は、経済苦境が何でも中国人のせいにされると主張する中国人2世協会の代表、マルコ・ウォンさん(47)の言を引用している。

「今は、失業も繊維・衣料産業の弱体もすべて中国のせいになる。閣僚が『中国人は何でも食べるから、レストランは気をつけろ』と言ったり、ベルルスコーニ首相が『中国人は子供を食べている』と言ったり。この国の文化、教育レベルの低さが偏見を広める。我々の納税が年金制度を支えているといった話はまず報じられない」

 同記事はこう続ける。

 中道右派の週刊誌「パノラマ」は10月7日号でベーッと舌を出す中国女性を表紙に「我々を立ち退かせた、中国人の侵略」という特集を組んだ。各都市の中国系の店を中国国旗で示し、「侵略」ぶりを非難しながらも、記事には起業家精神の高い中国人に学べという教訓も込められている。


 正規の移民500万人の内訳はルーマニア21%、アルバニア11%、モロッコ10%で、中国人は4位の4.4%にすぎない。それでも人々が脅威に思うのは、雇われを嫌う中国人の独立心が大きい。先の雑誌によれば、在イタリア中国人の7人に1人は起業家だが、イタリア人のそれは44人に1人。「従業員1人でもいいから主(あるじ)になりたいという精神が中国移民にはある。でも、最近増えた企業駐在員や大半が大卒の2世などいろいろな中国人をもっと見てほしいね」

 「一国一城の主」を夢みるのはイタリア人の特徴でもある。そのお株を奪われ、指をくわえて見ているイタリア人の姿が目に浮かぶ。【ローマ藤原章生】

(2011年7月13日収録)


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