英国エコノミスト誌の記事(2020年5月30日)により、東南アジア諸国における中華系(Ethnic Chinese)の人口・経済ウエイトを図録にした。華僑・華人人口については図録8590や中国への直接投資を扱った図録8580を参照。

 東南アジア主要国の中では中華系の人口割合はシンガポールが76%と圧倒的に高いが、マレーシアやタイでもそれぞれ23%、14%とかなりの割合を占めている。しかも各国の富裕層の多くが中華系で占められている点も東南アジアの特徴である。

 フォーブス誌のデータをエコノミスト誌が分析したところによると、2019年には東南アジアの億万長者(ビリオネア)の資産3,690億ドルの4分の3以上が中華系の華人(huaren、他国の市民である「海外中国人」を意味する北京語)によって支配されている。

 その多くは富裕な華人都市国家であるシンガポールに住んでいるが、それ以外にもインドシナ半島から、インドネシア、フィリピンの島しょ部まで広範囲に分布している。上掲記事及びウィキペディアによってその状況を紹介しよう。

(タイ)
 謝家が基礎を作ったCP(Charoen Pokphand)Group は、鶏肉や豚から自動車や電話に至るまで、あらゆるものを販売するタイ最大のコングロマリット。CPの年間売上高680億ドルの5分の2は、動物飼料工場やスーパーマーケットなどを運営する数百の中国子会社を通じてもたらされている。CPは中国のテクノロジーと保険の巨人、中国平安保険の株式を大量に保有している。また、自動車メーカーである上海汽車集団(SAIC)などタイへの中国人投資家のお気に入りのパートナーでもある。SAICと提携しCPはファンシーなMGスポーツカーやピックアップを製造している。

(マレーシア)
 マレーシアのロバート・クオック(Robert Kuok、郭鶴年)氏は、砂糖からシャングリラ・ホテルまで、あらゆる分野にまたがる帝国を主宰している。1965年にリム・ゴートン(Lim Goh Tong、林梧桐)が設立した企業グループであるゲンティン・グループは、カジノ、テーマパーク、ホテル、クルーズラインなどエンターテイメント及びホスピタリティが主事業。

(インドネシア)
 インドネシアでは、リアディ家が所有するリッポーグループが銀行、不動産、ヘルスケアの分野で活躍している。戦後、自転車商から身を起こし、銀行を買って、コングロマリットの力宝集団(Lippo Group)をつくりあげた李文正(Mochtar Riady)の活動については図録8580でも紹介した。

 麺から金融までのコングロマリットであるサリムグループの創業者リエム・シオエ・リオンは、1967年から1998 年までインドネシアの独裁者だったスハルトと密接な関係を築いたことで有名で、製粉からクローブの輸入までの分野で有利な独占とライセンスを取得した。

(フィリピン)
 フィリピンの億万長者17人中15人が華人だった。ヘンリー・シー(Henry Sy、施至成)が運営するフィリピン最大の小売業者SMグループは中国全土に高級ショッピングモールを展開している。

(ミャンマー)
 ミャンマーは億万長者が財産を築くには貧しすぎるが、不動産・銀行企業であるYomaグループのサージ・パン(Serge Pun)や、インフラストラクチャーや不動産に利権を持つShwe Taung Groupのアイク・トゥン(Aik Htun、李松枝)など主要なビジネスマンは中国系ビルマ人である。

 開放政策が1980 年代に始まったとき、中国共産党の指導者たちは、資金と専門知識を得るために華人に目を向けた。西側資本が中国の台頭に一役買ったとすれば、ディアスポラ華人からの投資も同様に重要だった。

 1979年、タイのCPは深センの経済特区に設立された最初の外国企業となった。そこでは、企業は自由主義市場を操ることができた。マレーシアのクオック氏は砂糖を販売するだけでなく、すぐにシャングリラ・ホテルを中国にオープンし、ビジネス旅行者に快適で使い慣れた客室を提供した。彼は現在、そこで何十ものホテルを運営している。もう1つの華人マレーシア家のゲンティン・グループは、2022年に中国の冬季オリンピックに向けて豪華なホテルを建設している。この間ずっと中国はゴムやパーム油などの東南アジアの商品を、しばしば華人グループから購入してきた。エカ・チプタ・ウィジャヤ(Eka Tjipta Widjaya、黄奕聡)が経営するインドネシアのシナール・マス(Sinar Mas)は中国最大の製紙業者の1つである(インスタントラーメンやプロテインバーも販売)。

 中国はさらにICT投資など高度な投資分野でも中華系資本との連携を図ろうとしている。一方華人グループの方ではそうした中国との投資連携を進めながらも、地元国の住民の中国への反撥や億万長者へのやっかみ、東南アジアの複雑な政治関係などにも配慮しながら、中国以外の経済圏との提携も模索しながら、よりグローバルな企業グループへと脱皮を図ろうとしている。

(2023年1月4日収録)


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