アジアへの観光旅行やアジア人の食事事情を紹介するテレビ番組では、屋台や外食の状況が日本とアジアではかなり異なっていることが感じられる。ここでは、これを示すアジア人の朝食・夕食のスタイルのデータを取り上げる。

 自宅で自宅料理を食べる通常の食事スタイルはどの国でも最も多くなっている。しかし、朝食では自宅で自宅料理を食べる割合が低い国もある。ベトナム、台湾、香港では50%台とかなり低い点が目立っている。

 ベトナムでは、朝食を、購入料理・弁当(お店・屋台などの料理や弁当を持ち帰り自宅で食べる)やインスタント食品の自宅食、レストランや屋台での外食で済ますといった多様なスタイルをもっている。ところが、夕食に関しては、ベトナムでも自宅料理の自宅食が中心である。

 台湾では、朝食を購入料理・弁当、及び屋台で摂る比率が大きい。台湾は夕食も自宅料理の比率が朝食よりは増すが、朝食と同様に購入料理・弁当や屋台の比率も大きい。「台湾の業界団体の調査によると、台湾人の朝食、昼食の外食比率はいずれも8割以上で、3食とも外食という人も少なくない」(毎日新聞「日本発・世界のヒット商品」2013年9月22日)。このため、モスバーガーの現地法人である台湾モスが開発し、ヒットさせた台湾版「焼き肉ライスバーガー」では「しっかり満腹感を得てもらおうと、日本版よりコメは2割ほど増やした」(同)という。

 香港では、朝食も夕食もレストランで食する割合が、最も多く、香港人はレストラン大好き国民である点が特徴となっている。年齢別、所得別、朝食・夕食別のレストラン利用割合を図録8038に掲げておいたので参照されたい。

 タイでは、朝食、夕食のいずれにおいても、購入料理・弁当を自宅で食べる割合が、1位〜2位と多くなっているのが特徴である。また、フィリピンでは、タイと同様に購入料理・弁当の自宅食が多いほか、インスタント食品の自宅食が多くなっており、このパターンがアジアの対象国の中で最も多くなっている。インスタント食品好きという点では、インドネシアも朝食、夕食ともに多い。インドネシアでインスタント・ラーメン(即席麺)の1人当たり消費量が韓国に次いで多いのもこうしたスタイルが定着しているためだと考えられる(図録0445参照)。

 アジアの特色はやはり屋台食である。屋台食といっても「朝だけ屋台食」(中国、ベトナム)と「朝夕屋台食」(マレーシア、台湾、シンガポール、タイ)という2パターンがある。シンガポールは朝夕5割近くと非常に多くの人が屋台を利用しており、アジア随一の屋台大国の名に恥じない結果である。女子人口が少ない新興移民都市だったシンガポールでは、生活の基礎を築くために、男も女も働かなければならなかったため、家庭には食事の準備をするものがおらず、外食でまかなう以外の方法がなかった。このため、外食文化がねづき、誰もが、安く食事できる屋台が増えていったといわれる。もっともシンガポールは都市国家なので高く出ている面もあり、タイやマレーシアでも首都だけとれば屋台食の比率はもっと高くなろう。


 このようにアジアでは、特に都市部では購入料理や屋台食が普及しているので、自宅の調理設備も簡便となっており、インスタント・ラーメン(即席麺)をつくるのさえ面倒がる人が多いことから、電気器具のシャープがインスタント・ラーメンづくりに特化した電子レンジをタイで売り出し、これがヒットしているらしい(毎日新聞「日本発・世界のヒット商品」2014年1月19日)。

 「屋台が充実しているバンコクなどタイの都市部では、食事のほとんどを外食で済ませる人が多い。台所さえないコンドミニアムや炊飯器、電子レンジしか調理器具のない家もあるほど。手軽に作れるインスタントラーメンはタイでも人気だが、作るにはやかんや鍋でお湯を沸かさなくてはならない。家であまり料理をしない人にとっては、インスタントラーメンでさえも「手間がかかると思われている」(調理システム事業部の旗田宏樹さん)食べ物だ。そこでシャープは、野菜などのトッピングと麺やスープのもと、水を入れた器を電子レンジに入れ、ボタンを押すだけで調理できる機能を開発、「インスタントシェフ」(ヒットした電子レンジの商品名:引用者)に搭載した。内蔵のセンサーが、蒸気で湯加減を自動的に検知するため、麺、トッピングの種類や量を気にする必要もない。開発にあたって、タイに続いてインスタントシェフを展開したインドネシア、シンガポール、ベトナムを含む4カ国で市販されているインスタントラーメン数十銘柄を実際に調理し、仕上がりを確認した。麺の硬さや仕上がり温度を好みに合わせて調整できるボタンもつけ、「猫舌のユーザーに好評」(旗田さん)という。」

 日本では「夜はときどき家族でレストラン」というのが一般的であるが、このスタイルはアジアの中では日本、韓国、中国、香港の特徴であり、インドを除くとアジアではそう普及しているスタイルではない。むしろ、夜というより朝、レストランで外食がベトナムやインドの特徴である。もっともこの場合はレストランといっても簡易な食堂が多いと考えられる。

 日本と韓国は、レストランでの夕食を除くと、朝食、夕食とも自宅料理の自宅食が中心だという特徴がアジアの他国との比較で見て取れる。

 このようにアジア各国はそれぞれの多様な食事スタイルをもっている点が印象深い。

 なお、朝食を食べないケースが各国とも一定程度以上の割合となっている。朝食を食べないという回答は香港で10.3%で最も多く、日本、韓国も9.0%、8.3%と多い。多忙が理由であろう。他方、インドでは朝食を食べないケースがこの調査ではゼロである一方で、夕食を食べないケースが5.6%とかなりある点が目立っている。貧困が食べない理由だとすれば朝食を食べない人もある程度いるはずなので、むしろ、夕食より朝食を重んじる食事スタイル、あるいは宗教上の理由等で夕食は食べない食事スタイルの人がいるからと考えた方が適切であろう。

 最後に、インスタント食品を常食する階層が低所得階層なのかを見ておこう。下図のように、インドネシアの朝食を除くと特にインスタント食品を常食する階層が低所得層とは思われない。むしろ、全体として、中所得層でやや常食傾向が高まり、高所得層では常食傾向が低まる傾向があるように見受けられる。

 なお、各年で同じ設問の調査が行われている国について値を比較してみるとかなりブレが大きい。ここでは、最も新しい年次の値を採用しているが、全体にそうロバストな(毎回同じ結果を繰り返す)調査結果ではないことを頭に入れて回答結果を解釈する必要がある。


(2013年5月23日収録、5月28日インスタント食品の所得階層別分析追加、10月2日台湾事情追加、2014年1月19日インスタント・ラーメンづくり電子レンジのタイでのヒットのコメント追加、7月22日2006年調査のデータを新たに使用、台湾、香港追加、2018年2月10日シンガポールの屋台食起源)


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