6月14日に新宿区の感染者数(累計)が世田谷区を上回ったが12月25日に世田谷区の感染者数が、再度、新宿区を上回った。

(過去のコメント)

 2020年4月4日、東京都で新たに確認された新型コロナウイルス感染者が118人とはじめて100人を越え、さらに連日この数は増え続け、19日には201人が確認され、累計は2,794人になった。こうした発表を受け、首都を中心に全国で感染爆発が起こるのではないかという不安や懸念がますます強まったが、その後、新規感染者数は4月26日に72人と久方ぶりに100人を切り、5月7日には23人と30人を切るなど、だいぶ落ち着いてきている。

 それでは、東京の中でもどんな場所で感染が拡大してきたのであろうか。

 東京では、区市町村別の感染者数が3月31日時点から毎日公表されるようになった。新聞、テレビなどでは、実数の多い世田谷区などが注目されているが、地域分布の構造を理解するために重要な人口当たりの感染率は余り報じられていない。そこで、東京都の地域別の感染者数の実数と人口当たりデータを図録に示した。

 東京と全体の動きを他地域と比較したデータは図録7888参照。

 感染者数が最多の区は、歌舞伎町のホストクラブでの集団検査が行われたためもあって、6月15日から新宿区となった。

 それまで首位であった世田谷区の感染者数の多さが注目されているが、人口が92万人と都内の他地域と比較しても母数が格段に大きいので当然ともいえる。

 人口10万人当たり感染者数で比較すると世田谷区はむしろそれほど目立たない。

 人口当たりで感染率が最も高いのは、新宿区であり、その水準は、韓国の21人というレベルをすでに大きく越え、イラン以上の水準である。最も高い区は5月23日以前は一貫して港区だったのであるが、緊急事態宣言解除後に「夜の街」の感染がクローズアップされるようになってからは、新宿区がこれに代わっている。

 例えば、6月6日には新型コロナウイルスの感染者26人のうち12人は新宿エリアにある同じホストクラブに勤める20〜30代の男性従業員で、ほかにも4人が夜の繁華街との関連が疑われると報じられた。こうした従業員は職場に近い新宿区(あるいは近い中野区など)に住んでいるのであろう。

 新宿区に次いで高いのは港区である。

 この2区の他では、中央区、台東区、渋谷区、豊島区などが高いレベルとなっている。こうした地域の特徴は、都心である点、また、銀座、赤坂、六本木、新宿、上野、浅草、渋谷、池袋といった繁華街を抱えている点である。隣接する新宿区と文京区、台東区と墨田区で大きな感染率の差が認められるのは(注)、やはり、大繁華街を有しているかどうかの差と言わざるを得ない。

(注)4月中旬ごろまで存在した台東区と墨田区の大きな差が5月11日の見直しまで逆転していたのは3月末に院内感染が確認された永寿総合病院関連など調査中の感染者が多かった影響だと思われる。

 新宿区は全国屈指の歓楽街・歌舞伎町を抱える。3月末段階で吉住健一区長は「区内の感染確認者のうち、夜間営業に関わる業務に従事している人は、おおむね4分の1程度だ」と指摘したという(毎日新聞2020.4.15)。


 上に、参考図として、国勢調査による都内地域別の通勤・通学人口を掲げた。オフィス、学校、繁華街を有する地域ほど流入超過人口が多いことが分かる。こうした地域で感染率が高くなっているのである。

 こうした特徴は時間が経つにつれてそう目立たなくなってきている。というのも墨田区、目黒区、世田谷区、中野区といった住宅地域も繁華街を有する区のレベルに近づいているからである。

 その中で目黒区は当初から大田区や世田谷区と似た性格の地域であるにもかかわらず感染率が相対的に高く、例外的な値を示していた。

 感染者数が最も多い世田谷区の区長は、区内の感染状況については「クラスターは、確認されていない。仕事や旅行で欧州に渡航・滞在する住民が多い。欧州で感染が急拡大した3月、帰国者の中でまとまった感染者が出た。区内は20〜40代が多く、都心に働きに出ていて行動範囲が広いことも一因かもしれない」と言っている(毎日新聞2020.4.15)。

 目黒区の感染率が高いのも欧州からの帰国者が多いせいなのかもしれない。

 そういう意味では、墨田区、世田谷区、中野区といった住宅地域が目黒区と変わらない水準になっているのも同様の理由かもしれない。

 むしろ、欧米系外国人の多さが関係している可能性もある。

 23区の中でも都心から外れた区、あるいは多摩地域では感染率は格段に低くなる。日本の全国平均11.8人(5月4日段階)よりも低い地域も多いのである。島しょ部に至っては感染者1人である。都内でもこれだけの濃淡があるということは、区市町村別の感染者数が発表されなかったら分からなかったことである。

 こうした差の要因については、人口密度の高い都心居住そのものが感染しやすい環境だからなのか、それとも、繁華街や病院が職場だったり、海外との往来が多かったりして、そもそも感染リスクの高い職業の者がこうした地域に居住しているからなのかは分からない。後者だとしたら、感染リスクから逃れるためにこうした地域から脱出を図るのは合理的な行動とは言えないだろう。

 東京では若者層が感染を広めているとして、年齢別の感染者割合が報じられることが多い。しかし、その場合30代以下、40代以下の割合が提示され、若者層をやや過大に示す傾向がある。若者層といえばやはり20代以下であろう。そこで次図に全国と東京の感染者に占める20代以下の割合を各月毎に示した。


 全国的に20代以下の感染者割合が上昇傾向にあることは確かであり、特に6月に入ってその傾向が著しくなった。これは最近になって疑わしい者まで広くPCR検査が行われるようになったためであろう。

 東京も、また、同じ動きをたどっている。上昇傾向が認められるので、東京都知事が勧告しているように、若者の行動に一層の自重が求められることは言うまでもない。

 しかし、4月までは東京の値は段々と全国水準に近づいていたとはいえ、なお、全国とほぼ同水準であった。東京の若者が特に危険な行動に走っていたとは思えない。東京における感染率の急上昇を若者の行動のせいだとしたのは、何か合理的な説明が欲しいという不安心理のあらわれに過ぎない可能性が高いのである。

 その後、若者の比率、特に東京の若者の比率が上昇したのは、やはり、東京を中心に広くPCR検査が行われるようになったためであろう。

 図録1951fには年代別感染者数の推移を全国と東京都について示しているので参照されたい。ここでは20代だけが増えているのではなくて20〜50代全体が増えていることがうかがえるのである。

 次に、時系列的な動きを見てみよう。

 図には、わずかの期間の動きであるが、感染者数の変化が分かるように3月31日の値をオレンジの点で図示した。増加数は感染者数最多の世田谷区や都心各区で大きいが、伸び率は、むしろ、都心部よりも周辺部で大きい。感染が同心円状に広がりつつあることを示しているといえよう。

 さらに、以下には、都内地域別に人口当たりの感染率の推移をあらわした。5月11日に報告漏れの修正が行われ、都心地区に次いで西部地区ではなく下町地区が感染率で2番目に大きい地区に浮上した。これにより住宅地域より都心部の方が感染率が高いことを裏打ちする結果となった。

 しかし、この修正は、患者や職員ら計214人が感染し、患者43人が亡くなった国内最大級の院内感染が台東区の永寿総合病院で起き、計数の整理に時間がかかったためである。このような大きな院内感染となったのは、2月26日に脳梗塞で入院した一人の患者の発熱を「誤嚥性肺炎」と診断することにつながった「新型コロナを疑うタイミングの遅れ」が決定的な要因となり、3月20日頃から患者や看護師の発熱が増え始めて初めて集団感染に気付いたためだった(東京新聞「検証・コロナ対策F連鎖」2020.7.28)。

 下町地区の急増はこの影響が大きく、時間が経つと再び西部地区の感染率の方が高くなっている。

 なお、都内地区別の感染者数の動向を対数グラフであらわした記事をプレジデントオンラインに掲載したので参照されたい(ここ)。


(2020年4月6日収録、4月7日通勤・通学人口図、目黒区コメント、夜更新、4/8更新、4/9更新、埼玉県地域別感染動向図、4/10若者の感染割合、更新、4/11〜4/14更新、4/15更新、新宿区・世田谷区区長の報告、4/16以降原則毎日更新、7月28日台東区の永寿総合病院の院内感染、2022年1月27日年齢別割合推移、4月30日クラスターの発生場所)


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