日本人の好きな料理の第1位はすし(寿司、鮨)である(図録0332)。また近年では、健康志向のひろがりにより回転寿司をふくめ世界中にすしブームが広がりつつある(韓国は図録0331、アジアは図録8035)。

 また、全国各地に地元名物の寿司が存在している。参考までにその一覧表を以下に掲げた。

全国各地の地元寿司
秋田 ハタハタ寿司
千葉 太巻き寿司(房総半島)
東京 握りずし
新潟 笹寿司(上越地方)
富山 鱒寿司(富山市)
石川 かぶら寿司(加賀地方)
三重 さんまずし(東紀州)、手こね寿司(志摩半島)
奈良 柿の葉寿司
和歌山 早ずし(サバの早ずし)
島根 箱寿司(石見銀山周辺)
岡山 どどめせ(瀬戸内市、ばら寿司元祖)、ままかり寿司
山口 岩国寿司
徳島 ボウゼの姿寿司
愛媛 いずみや(新居浜市、魚とおからの押し寿司)
佐賀 須戸寿司(白石町須古地区)
熊本 コノシロの姿寿司(八代海沿岸)
(注)*は下記資料以外
(資料)尾形希莉子・長谷川直子「地理女子が教えるご当地グルメの地理学」ペレ出版(2018年)

 そこで、日本の中でも、どの地域で「すし」が多く食べられているかを図録にした。元データとした家計調査では、すし(外食)とすし(弁当)の2項目の家計支出額(消費額)が計上されているので、両者の都道府県所在都市別の集計をグラフにした。寿司の都市別の消費額(特に外食)については他の食品より毎年の変動が激しい。これは回転寿司チェーンの地域展開の影響などによるものだと思われる(ページ後段の表参照)。

 すし消費の地域性を理解するには、すしの歴史を簡単に振り返っておく必要がある。として以前は、ここにすしの歴史を記述していたのであるが、その部分は図録0354「すし(寿司、鮨)の歴史」として独立化させたので、そちらを参照されたい。

 それによると、すしの歴史は、米の乳酸発酵を利用した魚の保存食であるナレズシから飯を食べるナマナレへの発展が「すしの第一革命」、箱すし、押しずしに代表される、酢の使用による早ズシの登場が「すしの第二革命」、そして、こうして各地に根づいたスシ文化の中へ握りずしが全国展開したのが「すしの第三革命」と呼ばれている(日比野光敏「すしの歴史を訪ねる 」1999年による)。

 こうしたすしの歴史を踏まえると現在のすしの地域分布がよく理解できる。「すし外食」は、回転寿司をふくむ握りずしの消費が中心であるため、「すしの第三革命」で全国展開したとはいえ、握りずしが開発された関東以東でなお消費量が多い。明らかに東高西低の傾向が見て取れる。第1位都市は、関西文化圏に属する金沢であるが、これは石川県民がそもそも魚が好きであり(図録7239)、金沢では高い消費水準を背景に日本料理店が発達しているからだと考えられる(図録7805)。

 一方、持ち帰り寿司を含む「すし(弁当)」の方はというと、京阪神が最も多く、以東、以西に離れるにつれて、山のすそ野のように消費額が少なくなる傾向が明らかである。箱すし(押しずし)の文化中心が京阪神地方にあったことがすし弁当の消費パターンに大きく影響しているといえよう。

 この点をさらに分かりやすく理解するため、以下に、すしの外食と弁当の消費額の散布図を作成した。これを見れば、すし(外食)がすし(弁当)に対して相対的に多い都市が関東以東と札幌、仙台といった転勤族が多い地方拠点都市に多く、逆に、すし(弁当)がすし(外食)に対して相対的に多い都市が、関西の諸都市に多いことが分かる。前者は「握りずし文化圏」、後者は「箱ずし文化圏」と呼ぶこともできよう。扇の要の位置にあるのが金沢市であり、両者の性格をあわせもっている点に特徴が求められる。



寿司好き都市の変遷
順位 2000〜02年 2004〜06年 2008〜10年 2011〜13年 2019〜21年
すし(外食)の上位10都市 
1位 甲府市 金沢市 金沢市 岐阜市 金沢市
2位 札幌市 川崎市 宇都宮市 宇都宮市 岐阜市
3位 金沢市 宇都宮市 名古屋市 金沢市 高知市
4位 宇都宮市 奈良市 岐阜市 名古屋市 福井市
5位 名古屋市 東京都区部 甲府市 静岡市 山形市
6位 東京都区部 富山市 さいたま市 福井市 静岡市
7位 福島市 長野市 神戸市 札幌市 甲府市
8位 浦和市 北九州市 奈良市 鹿児島市 札幌市
9位 富山市 さいたま市 東京都区部 浜松市 富山市
10位 仙台市 仙台市 福井市 千葉市 名古屋市
すし(弁当)の上位10都市 
1位 京都市 京都市 広島市 静岡市 前橋市
2位 名古屋市 名古屋市 和歌山市 金沢市 奈良市
3位 和歌山市 大津市 神戸市 名古屋市 高知市
4位 金沢市 奈良市 京都市 京都市 大阪市
5位 高知市 神戸市 徳島市 高知市 富山市
6位 大阪市 金沢市 名古屋市 浜松市 東京都区部
7位 富山市 徳島市 高知市 和歌山市 金沢市
8位 大津市 高知市 大阪市 奈良市 さいたま市
9位 神戸市 和歌山市 奈良市 堺市 徳島市
10位 静岡市 大阪市 金沢市 大津市 相模原市
(資料)家計調査

 上には、3カ年平均の上位消費都市がどう移り変わってきたかを示す表を掲げた。順位の変動がかなり激しいことが分かる。すし(外食)の方で5期連続10位以内は1市(金沢市)だけであり、すし(弁当)の方で5期連続10位以内は2市(高知市、金沢市)だけとなっている。回転寿司チェーンやすし弁当チェーンの地域展開の影響があるのであろうが、その他、偶然や地域的ブームなども関係しているのであろう。

 寿司好きは、しばしば、新聞等が話題として記事にするが、かつては山梨(甲府)が取り上げられ、最近は岐阜が取り上げられた(コラム参照)。いずれも内陸部である点、また突如1位にのし上がる点で共通性が感じられる。

 こうした内陸部の県民のすし好きは、魚を海側から運べる限界点をあらわす魚尻線から理解することができる点については図録7405参照。

【コラム】山梨県民はすしがお好き?

 毎日新聞が「追跡・発掘:山梨県民はすしがお好き?「海へのあこがれ」根底に」という記事を引用した(2012年06月16日地方版)。上記データでは甲府市民は全国第3位のすし(外食)消費レベルとなっており、その理由を探れるという点からも興味深い。

 ◇「無尽文化」が外食誘う 人口10万人当たりのすし店数、日本一

 海がない山梨県では海産物はとれない。にもかかわらず、国の統計によると、人口当たりのすし店数が全国1位だ。山梨ならではの食技法まであり、全国一すしを愛する県民と言っても過言ではない。それほどまでになぜ山梨県民はすしを好むのか、探ってみた。【春増翔太、屋代尚則】

 「山梨はすし店が多い」。そんな話をよく耳にする。甲府市中心部を歩けば、わずか100メートルの間に5、6軒が並ぶ。そこで、総務省統計局の11年度経済センサスと10年国勢調査を基に、各都道府県ごとのすし店数を算出してみた。

 その結果、人口10万人当たりのすし店数は山梨県38.1軒。2位の石川県は33.5軒だ。山梨県は最下位の高知県(10.9軒)の3.5倍で、単純に考えれば、山梨県民は、高知県民の3.5倍の頻度ですし店を利用しなければ成り立たないことになる。

 「家族での食事や祝いの席、法要。いろいろな場面で利用してもらっています」と話すのは、県内すしチェーン大手「若鮨(わかずし)デリカフーズ」の依田直巳・店舗運営部長。同社の店では、週末になると子供の誕生日会や還暦祝い、退職祝いなどの予約が増える。「山梨の食文化には、『祝いの席で必ず食べるもの』があまりない。だから、すしを食べる機会が多いのでは」。依田部長はこう分析する。

 山梨学院短大の松本晴美教授(食生活論)も「幼少期に良い雰囲気で食べることが多いすしを、大人になってからも好む傾向がある」と指摘する。加えて、山梨独自の「無尽文化」が外食を盛んにしているという。

 ではなぜ「外食=すし」なのか。依田部長と松本教授は「海へのあこがれ」をそろって挙げる。海がない山梨で、海産物は貴重品だった。塩漬けマグロが貴ばれ、あわびは煮貝として名産になった。

 08年に企画展「甲州食べもの紀行」を開いた県立博物館(笛吹市御坂町成田)の植月学学芸員によると、江戸時代から山梨ではすし屋が多かった。当時は、塩漬けなどで加工された魚だった。海産物は、明治時代までは鮮度を保つのが難しく高級品だったが、その後の流通の発達で気楽に食べられるようになり、更に好まれるようになったという。

 山梨では古くから、握りずしに、しょうゆベースのたれを煮詰めた「ツメ」を付けるのが一般的だ。スーパーの総菜売り場にも今も、ツメを塗ったすしが並ぶ。「鮮度の良くない魚しか来なかった時代の工夫です。そこまでしてでも鮮魚を食べたかったのでしょう」と松本教授は指摘する。

 創業1897年のすし店「魚そう本店」(甲府市中央4)3代目社長の小沢宗一さん(56)によると、静岡から塩漬けして運んだマグロの塩分を調和するために甘いツメを塗ったという説もあるという。「流通が発達して鮮度の良い海産物が入るようになった今でも、当時の工夫が食文化として残っているのですね」

==============
 ◇10万人当たりのすし店数◇

 1位 山梨県38.1
 2位 石川県33.5
 3位 東京都32.7
45位 鳥取県13.8
46位 沖縄県11.3
47位 高知県10.9
   全国平均22.5

【コラム2】 岐阜市民はすしがお好き?

 日経MJの2015年1月1日号の個性キラリ私の街「海はなくてもすしが好き」と題された記事を引用する。長期データではそう上位ではないが、2011〜13年平均のデータで岐阜市が1位に躍り出たので取り上げられたものである。

 日本食の代表格でもあるすしの消費は意外にも海産物が豊富に取れる北海道や北陸ではなく、中部地方の岐阜市が1位になった。外食好きとされる市民性に加え、隣接する愛知県内には酢やしょうゆメーカーなども多く、すし文化が昔から根付いている点も消費量を後押ししているようだ。(中略)

 岐阜県鮨商生活衛生同業組合(岐阜市)によると「外食好きの市民が多く、記念日などではすしを食べる習慣が根付いている」という。実際、家計調査でも岐阜市の12年の外食にかける年間消費額は22万1296円と全国平均よりも4割多くなっている。

 岐阜市は2位の宇都宮市同様、海に面しておらず、歴史的に海産物が重宝されていたという点もすし好きな市民性を育んだのかもしれない。今後もハレの日の外食として、内陸部のすし店はにぎわいを見せそうだ。


(2012年6月18・19日収録、6月25日コメント改訂、2015年1月5日寿司好き都市の変遷の表、及びコラム2追加、9月3日コラム3追加、2018年6月3日石毛引用、2021年2月22日チェンマイでも魚醤が親しまれているエピソード、2022年10月30日更新、2023年4月2日地元名物寿司一覧表、5月8日篠田統(1975)「大陸のすし」、2023年9月20日すしの歴史記述の部分を図録0354「すし(寿司、鮨)の歴史」として独立化)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 地域(国内)
テーマ  
7724 都市別トップ消費食品
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)