家計に占める食費の割合であるエンゲル係数は家計が苦しいほど高い値をとるとされる(エンゲルの法則)。この点を家計調査のデータから県庁所在市について確かめた図を図録7717に掲載した。その結果からは、確かにエンゲルの法則は成り立っているが、例外の地域も多いことが明らかになっている。そして、家計の消費水準とエンゲル係数の回帰傾向線から上方に乖離した地域、すなわち豊かさの水準の割にエンゲル係数が高い地域はグルメ都市と見なせる点も明らかになった。

 そこで、この図録では、試みに各政令市におけるその乖離度を都道府県別のグルメ度としてグラフにした。

(注)グルメ度は食事時間の長さでも測ることができる。国際比較ではそうした図を掲載した(図録0210)。都道府県の食事時間は図録7322に掲げたが、ここでのグルメ度と食事時間の長さが一致している地域がある一方で、エンゲル係数が家計の豊かさの割に相対的に低い山梨、長野の食事時間が長くなっているなど両方のグルメ度とは必ずしも一致しない。

 「京都の着倒れ、大阪の食い倒れ」と古くから言われているが、グルメ度のトップは大阪であり、まさに「食い倒れ都市」の名に恥じない結果となっている。

 大阪に次いでグルメ度が高い地域は、京都、東京、兵庫、神奈川、滋賀、千葉、愛知と続いている。

 すなわち、グルメ度が高い地域は、3大都市圏に属する地域であり、その中でも、関西圏が最も高く、東京圏、名古屋圏の順番となっている。

 まさに、食事にお金をかけるのをいとわないグルメ都市はどこかという一般に想定されている通りの結果となっており、この指標の信ぴょう性が確認できよう。

 その他の地方では、東北地方の中では宮城と青森がグルメ地域となっている。仙台を抱える宮城はうなずけるが、青森はやや意外である。

 北陸地方の中では福井、中国地方の中では広島、九州地方の中では長崎が他県を引き離してグルメ地域となっている。北陸が金沢を抱える石川でなく、九州は中心都市の福岡でない点はやや意外であるが、そういう気がしないでもない。福井の場合は貯蓄率が全国トップであり(すなわち所得のうち消費に回す分が少なく)、消費支出でなく所得でエンゲル係数との相関ととれば、それほど高くはないのかもしれない。

 この指標の低い地域は、逆に、グルメから遠い質素地域と見なせよう。質素度トップ3は香川、鹿児島、大分の順になっている。図録7717でもふれたが、香川がもっとも質素なのは、うどんというどう凝ってみたところで単価がそう高くない食材をグルメの対象としているからと見なせよう。

 日本列島全体で質素地域を見ると、東日本では、北海道、北関東の茨城、東山の長野など特定の県で質素さが目立っているが、西日本では、四国や島根・山口から九州地域で質素な地域が連なっている点が印象的である。東日本より西日本の方が質素というのは一般的な印象とは異なるが事実なのだろう。

 貧しかった時期が長かった東日本の人間はやや味オンチであり、舌が肥えているのは歴史的な蓄積で勝っている西日本の人間と考えることができよう(図録7708参照)。私の個人的な経験では、東日本では金持ちでも勢いや心意気だけで食事を平らげる傾向があり、西日本では貧乏人でもまずいものは食べないというようにそれぞれが自分の食を大切にしている印象がある。関東の「食通」と関西の「美食」の対比もこれである(図録7840参照)。

 だとすると、データ上、グルメ度が関西圏より西の西日本で低い傾向があるおかしな感じがする。その理由は、おいしいものが安く手に入ったり、あるいは図録7711、図録7238aで見たように牛肉のような高い食材ではなく鶏肉といった身近な食材でグルメを楽しむ傾向があるので(香川のうどんがその究極形!?)、見かけ上、質素に見えているだけなのかもしれない。

 なお、この図録を作成した事情をしたためておくと、現代においてエンゲル係数は貧困度というより「食生活の豊かさ」を示す指標だとし、消費支出とエンゲル係数の相関図(ただし地方ブロック別)も描いている先達がおり、同じことに気づいた人はいるのだと勇を鼓されたからである(加藤純一「ヒネリの食文化誌」プレジデント社、1995年)。

(2024年1月8日収録)


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