文部科学省では、毎年、学校児童学生、および成年・高齢者を対象に体力テスト(体力・運動能力調査)を行っているが、2008年には報道によると約1億8,000万円をかけて、小学5年生と中学2年生の全員を対象に全国体力テスト(全国体力・運動能力、運動習慣等調査)を行った。

 例年の体力テストはサンプル調査なので標本数の関係もあって都道府県別の結果は公表されていないが、今回の全数調査である全国体力テストでは、都道府県別、男女別に結果が公表され、新聞等でも報道された。

 野山を駆け回れる田舎の子の方が都会の子より体力があるかと思うとそうではなく、むしろ、電車通学の多い都会の子供の方が、いまや自由な野山も少なくなり人の目が届きにくく安全面でも問題がある田舎の子より体力があるということがかねてから囁かれていた。これは本当であろうか。

 小6と中2のそれぞれについて男女別の相関図を描いてみても、男女の体力測定値は都道府県によってほぼ平行していることが分かった(男子の体力が高い県は女子の体力も高い)。そこで、男女の測定値の単純平均について、X軸には小6、Y軸には中2の値をとって相関図を作成した。するとほぼ正の相関が認められ、小6で体力のある県は中2でも体力があることが分かる。相関図はもちろん2つの値の相関の状態を調べるために作成されるが、2種の値の分布を一望に眺めるためにも有益である。ここでは主に後者の目的で相関図として表現した。

 この図をみると、子どもの体力が高い地域は、福井、千葉、茨城、秋田といった県であり、子どもの体力が低い地域は、高知、北海道、奈良、東京といった都道府県であることが分かる。つまり、田舎か都会かということで子どもの体力には余り違いが生じていないことが明らかになる。自由に駆け回れる野山が多いかどうかは体力に関係ないようであるが、だからといって都会の子の方が体力があるともいえないようだ。

 見る人が見ればこの図から何らかの法則性や脈絡を読みとるかも知れない。

 マスコミは今回の文部科学省の全国体力テストには批判的である。「子供に発破を掛けることが体力向上に有効なのか。むしろ苦手意識を招く危険がある。スポーツクラブなどに入る子供や毎日朝食を取る子供は運動能力が高い−など当たり前の分析にも疑問が残る。経済格差や家族構成の複雑化が進む中、十分な睡眠や朝食を取り、スポーツクラブに通わせる余裕がない家庭もあるはずだ。個々の事情や家庭環境を考慮しないままのテスト結果を子供に丸投げする前に、文科省は財政や人材を手当し、地域や家族ぐるみで運動に親しめる環境づくりを優先させるべきだ。」(東京新聞2009.1.22)

 このようなマスコミ特有の批判にも当たっている点があるが、報道は、文部科学省のデータをそのまま引用して、あれこれ論評したり、当たり前に近い識者の意見を掲げるだけでなく、この図録に掲げたぐらいの分かりやすい図のひとつも独自に作成して紙面に掲げるべきだと思うがどうだろう。掲載された都道府県別の結果表はこの図録でも利用させてもらっているので、こんなことをいうもの変かも知れないが、文部科学省のHPからも同じデータは入手できる。新聞の一般読者は表だけ見せられても何か貴重そうと感じるだけでそこから何らかのヒントを見出す者は少なかろう。

 また、せっかくのデータなので、自然環境(スペース、気候、降雪等)や経済格差、家庭環境、交通条件、教育努力などの要因がどのように子どもの体力に関係しているかを多変量解析で誰かに分析して欲しいものだ。研究者は報道とはまた異なり、今度は強烈な社会関心度について難がある場合が多いので、なかなか期待できないのも残念である。

(2009年2月2日収録)


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