スマホでのSNSの使い過ぎを40代の母親から責められた13歳の少女がその母親を包丁で刺殺した事件が静岡県牧之原市で起きた(2023.1.16)。

 SNSと呼んでいるのは日本だけで海外ではソーシャルメディアと称されているコミュニケーション・プラットフォームについては、世界的に若者の方がいち早く飛びつき、中高年がそれを使用する割合が上昇したのは最近のことである。

 スマホの所有率についても同じように若者から中高年に普及が進んだことを図録6254で示したが、ここでは、ソーシャルメディアの年齢別の使用率の違いを主要国について調べたピューリサーチセンターの調査結果を掲げた。

 確かにソーシャルメディアの使用率は、若者については各国でほぼ9割以上を占めており、ほとんど大きな差がないのに対して、50歳以上の中高年の使用率は国により3割台から7割までかなりの差があり、中高年が若者層を追いかける状況には地域差があることが分かる。

 年齢差が大きいのはポーランド、ドイツ、ハンガリーといった中東欧諸国であり、年齢差が小さいのはイスラエル、韓国である。イスラエル、韓国はICTで国起こしを推進しようという機運の高い国であり、その結果がこうしたデータにあらわれていると言えよう。

 日本については、かつてはかなり年齢差が大きかったと思われるが、今では18〜29歳と50歳以上のソーシャルメディア使用率の差は39%ポイントと中位水準にある。

 年齢別の結果が特異なのはドイツで50歳以上だけでなく30〜49歳のソーシャルメディア使用割合が低い点が目立っている。世界的流行から距離を置くかなり頑固な国民性をあらわしていると言えなくもなかろう(図録6247参照)。

 ピューリサーチセンターのこの調査は、実は、ソーシャルメディアの社会的、政治的な影響を明らかにするのが主たる目的であり、その前提としてソーシャルメディアの年齢別使用率を調べているのである。

 本来の目的に沿って、ソーシャルメディアを使って社会的政治的な問題を論議しているかの設問をもうけているが、それについての年齢別の結果を図の下半に示した。

 年齢差ではなく、全体としての高低を見ると、イスラエルと韓国はソーシャルメディアで社会的政治的な問題を取り上げる人の割合が年齢によっては5割を越えるなど全体として高くなっており、ソーシャルメディア活用にも積極的な姿勢が感じ取れるが、その他の国では、実は、3割前後でいずれの国もそう高い訳ではない。

 また、年齢差を見ても、差が大きい中高年のソーシャルメディア使用率とは対照的に、ソーシャルメディアの政治利用の年齢差はいずれの国でもそう大きくないのが特徴である。若者の方が中高年よりソーシャルメディアを社会的政治的な問題でも使っていると決まっている訳ではなく、マレーシア、ギリシャ、韓国のようにむしろ中高年の方が若者よりそうした分野でソーシャルメディアを使う人が多い国もあるのである。

 ソーシャルメディアはそもそも私的なコミュニケーション手段として発達したのであり、政治的な利用はその副産物にすぎないからだと言えよう。

 なお、日本はいずれの年齢層でもソーシャルメディアを社会的政治的な問題で使う人が15%程度と少ないという特徴が認められる。そこらへんのところが、同じ儒教国である隣国韓国とまるで正反対である点が興味深い。スマホなどを使って熱く道徳問題や政治論議にふける韓国人と異なり、ソーシャルメディアはあくまで私的なコミュニケーションツールであり、社会的政治的な問題を論議するのは野暮だと思っている日本人が多いのであろう。

 読売新聞(2023.1.24)はSNSで社会政治問題を発信するいわゆる「ツイッターデモ」について「昨年(2022年)の注目度順に上位10件を抽出し、分析したところ、参加したアカウントの平均1割弱による投稿が、全投稿の半数を占めていたことがわかった。コロナ禍以降、ツイッターデモは急拡大しているが、一部のアカウントによる主張が増幅されている実態が浮かんだ」という。たとえば国葬反対は3.7%のアカウントで半数占めていた。

 藤代裕之・法政大教授(ソーシャルメディア論)の話では「誰が何のために始めたものか、拡散にボットが使われていないか。そんな点が検証されないまま、ツイッターデモがテレビの情報番組やネットニュースなど一部のメディアに大きく取り上げられて広がると、政策にゆがんだ影響を与える可能性がある」としているが、上で紹介したピューリサーチセンターの結果からも実際にSNSで社会政治問題を発信している日本人の割合は世界の中でも少ないのにネタ不足あるいは安直な情報収集の既成メディアが大きく取り上げすぎの傾向が認められるのである。

 参考までに下に年齢別のSNS利用率の2017年から22年への変化を特定国について図録6254から再録した。慎重なドイツ人と比べて日本の中高年の急速なキャッチアップが目立っている。


(2023年1月22日収録、1月24日讀賣記事引用、4月25日年齢別SNS利用率推移図を再録)


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