国際競争力が我が国の経済政策上の重要な概念となっている。国際競争力のキーは技術競争力であり、技術競争力を測る指標の一つとして技術貿易の状況をあげることができる。

 図録5920では日本の技術貿易収支の推移を対世界あるいは地域別に見たが、ここでは、日本の技術水準の動向をみるため欧米に対する技術の輸出入の推移を追うことにする。ここで技術の輸出入とは「外国との間におけるパテント、ノウハウや技術指導などの技術の提供、技術の受け入れにともなう対価の受入と支払」をいう。

 欧米に対する技術依存度を指標化するため、技術貿易について、輸入から輸出を引いた額を輸出入の合計で割った値を算出した。輸入だけで輸出がない場合は、技術依存度100%となり、逆に、輸入がなく、輸出だけの場合、技術依存度-100%となる。

 これは、輸出入から国際競争力を指標化する「貿易特化係数」と輸出と輸入が逆であるが同様の指標算出法である。ところが、技術貿易については、OECDなど外国での指標算出法の影響を受けてであろうが、技術輸出÷技術輸入の指標を「技術貿易収支比」と名づけ使用するのが一般的である。例:文部科学省「科学技術白書」「科学技術指標」。これだと1以下であると技術依存状態、1以上であると技術輸出超過となるが、グラフにしてみると余り分かりやすくない。

 また技術貿易の指標は普通は対全世界で計算されるが、アジアへの工場進出にともなってアジアへの技術輸出が拡大した分、日本の技術貿易の収支尻はプラス方向に底上げされる傾向にある。日本の技術力の指標としては、こうしたアジアとの関係の影響を除き、むしろ、対北米、対ヨーロッパの指標を抜き出して計算しないと真の姿が得にくいのである。

 こうした観点から、欧米に対する技術依存の状況が長期的にどう変化してきたかを見るため、図では、北米と欧州に対する製造業の技術貿易状況の推移を示した。製造業に限定したのは、技術の中心が製造業であるのと全産業ベースであると調査範囲についてソフト等に産業の範囲が拡大してきている要因を除去するためである。

 北米に対して、製造業全体では1970年代前半には依存度80〜90%と全面依存の状況にあったが、その後、技術依存度を一貫して低下させてきており、1997年度には、依存(輸入超過)から逆依存(輸出超過)に転換している。さらにこの傾向はその後も継続し2016年度は-71%と過去最低になっている。

 欧州に対しては、ほぼ、北米と同様の推移を辿っている。依存から逆依存に転換したのも北米と同じ1997年度である。ただし、出発点の依存度は北米より小さかったが、近年では、逆依存の状況は北米とほぼ同等となっている。2016年度の値は-71%と過去最大の逆依存となっている。

 日本の製造業は基本的に欧米に対して技術輸出超過国である。そして日本経済が停滞を続けていたとされるいわゆる「失われた10年」の間にも着実に技術立国としての地歩を強化していたのである。

 業種ごとの推移は図録5800を参照のこと。

 アジアに対しては、技術貿易に及ぼす企業の対外進出の効果が大きいが、北米、欧州に対しては、対アジアほど大きくないと思われるが、それでも、対欧米の技術依存度の低下は欧米への企業進出の影響もあるだろうとは思われる。企業進出の影響を除けばもしかしたら日本の技術はなお依存状態にあるのではないかという一点の疑問が残るのである。そこで、以下では、企業進出による技術依存度の低下効果を除いた動きを見るため、企業進出の効果をあらわす親子会社間の技術貿易による技術依存度とそれ以外の技術貿易による技術依存度を分けてグラフにした。残念ながら、対北米、対欧州の値は得られないので、アジアを含んだ対世界の値を掲げているが、日本の技術依存度は2006年度以降は、マイナスの傾向を強めている。もっと前からではない点は、やはり、対欧米についても、企業進出効果を除いた技術依存度の状況が逆依存に転じたのは、案外、最近ではないだろうかという見方も生じさせる。


(2007年8月13日更新、2009年11月19日更新、2010年2月26日更新、2013年2月8日更新、12月19日更新、2014年12月12日更新、2016年2月6日更新、2017年1月10日更新、3月27日親子会社集計によるグラフ、2018年12月19日更新)


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