セメントの重量単価はキロ6円と他の素材製品である印刷用紙の107円、ブリキの77円、鋼帯の34円、ガソリンの81円などと比べても極端に安く(工業統計表品目編による)、運賃負担力の小さな商品である。従って輸送コストの比率も他の素材製品と比べ非常に高い。このため、世界的には、セメント生産の立地は消費地近傍立地となっており、全国市場というより局地市場が中心であり、また輸出入比率は小さいのが通例である。

 セメント生産に関する米国の分布を見ると、全国まんべんなくセメント産業が立地しており、通例の姿を示している。ところが、日本では、3大都市圏の近傍というより、中四国、九州に片寄った分布となっている。

 これは、陸上輸送に依存せざるを得ない米国と異なって、沿岸輸送(内航輸送)を活用できる日本では、3大都市圏の内陸部の石灰石鉱山・セメント工場から輸送するより、資源量が豊富で臨海部に近い鉱山があり、生産性の高い生産が可能な中四国などから3大都市圏に集中的な海上輸送を行った方が効率的であるからである。言い換えれば、そうした生産と輸送のシステムが効率的になるようなセメント海上輸送の効率化がセメントタンカーの開発・大型化、臨海サイロの整備などを通じて実現されたからである。

 こうした状況の結果、日米の産業連関表(日本1995年、米国1997年)をみると、セメントの物流費比率は、日本は13.2%と米国の17.1%と比較して小さい。セメントの価格は日本が米国の0.69である(2002年度経済産業省の中間投入に係る内外価格差調査による)ので、なおさら日本のセメント物流費は低レベルであるといえる。

 鉄鋼やセメントなど重量物の生産が米国で衰退した理由の1つは沿岸船舶輸送の利用が難しい大陸国であるからだといえる。

(リンク)

 この図を使ったセメント産業の分析を含む調査報告書(「内航海運から見た素材型産業の物流コスト効率化に関する調査報告書」)は日本内航海運組合総連合会のホームページ(http://www.naiko-kaiun.or.jp/info/index.html)に全文掲載されている(第4部がセメント編)ので興味のある方はご覧下さい。



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