2020年8月3日、セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、米石油精製大手マラソン・ペトロリアム傘下のコンビニ運営会社、スピードウエーなどを買収すると発表した。日本企業による海外企業買収としては、武田薬品工業によるシャイアーの買収(約6.9兆円)、ソフトバンクグループによる英半導体設計大手ARMホールディングスの買収(約3.3兆円)などに次ぐ巨額買収となる。セブン&アイは、米国で約9000店を運営する全米最大のコンビニチェーン、米セブン―イレブンを傘下に持つ。スピードウエーはガソリンスタンド併設型のコンビニで、米国3位の約3900店を展開している。買収により店舗網は約1.4倍となり、米国2位のカナダ企業(約5900店舗)を大きく引き離すことになる。顧客基盤の共有や仕入れの共通化などで、買収後3年間で営業利益は2倍になると見込む(毎日新聞2020.8.4)。

 2019年7月19日、アサヒグループホールディングスは、オーストラリアのビール最大手「カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)」を買収すると発表した。アサヒグループHDは17年にチェコの「ピルスナーウルケル」など東欧五カ国のビール事業を買収。16年にもイタリアの「ペローニ」など西欧ビール事業を買収していたが、今回過去最大の買収となった。国内はビール市場が伸び悩んでおり、海外展開を加速し、日本と欧州、オーストラリアの三極を軸に販売を増やす計画だという(東京新聞2019.7.20)。

 2018年5月8日、武田薬品工業はアイルランドの製薬大手シャイアーの全株を取得することで合意したと発表した。これは、これまで最大だったソフトバンクによる英アーム買収を金額的に倍以上上回る規模の大型買収である。

 シャイアーは、血友病など希少疾患の治療薬や血液製剤に強みがあり、また開発が最終段階にある新薬候補を複数持っている。さらに、同社は世界最大市場の米国での売上高が多く武田は買収で米国など海外の販路拡大も狙えるという。武田のクリストフ・ウェバー社長は「二つの会社が一緒になることで、R&D(研究開発)主導の製薬業界の真のグローバルリーダーをつくることになる。地理的なカバーでも非常に魅力的だ」と巨額買収の狙いを説明した(朝日新聞2018.5.9)。

 シャイアーは下図の通り、売上高が武田薬品工業を上回っており、下位が上位を食う格好である。時価総額で自らを上回る同業大手の全株式を取得する「身の丈以上」の買収に対し、財務悪化への懸念から、武田の株価は下落基調にあるという。財務上のリスクを越えて、首尾よく、世界のトップ製薬企業(メガファーマ)並みの収益を得て行けるかが注目の的であるといえよう。


 2016年7月18日、孫正義ソフトバンクグループ社長と英国半導体開発大手のチェンバース英アーム・ホールディングス会長は、約3兆3000億円で前者が後者を買収することで合意した。ソフトバンクグループはアリババ株の売却益などによる自己資金約2兆3000億円に加え、みずほ銀行からの1兆円を限度とした借り入れで買収資金を賄うとされている(東京新聞2016年7月20日)。

 この買収は上図の通り、この時点では、日本企業による海外・外資企業の買収額としては最大規模となっていた。

 日本企業による海外企業の買収が増えはじめたのは、2006年ごろからであるが、これは、バブル崩壊後の国内事業の整理が一段落した時期に当たっている。日本企業は円安効果などにより過去最大の利益を計上しているが、自社事業の新規投資に回すことも従業者への給与に回すこともしていないので内部留保が積み上がっている(図録4610)。このため海外企業を買収するしか資金の使い道がなくなっており、今後も大型のM&Aが相次ぐと考えられている(読売新聞2016年7月20日)。

 ソフトバンクグループは次表の通りこれまで多くの企業買収で次々と成長してきており、今回は、設計した省電力型半導体チップが世界のスマートフォンの約95%に搭載されているアーム(ARM)・ホールディングの買収により、今後急拡大が見込まれるIoT分野(モノのインターネット)における主導権を確保できるものと考え、携帯電話事業に次ぐ成長の柱となることを期待している。

 ただ、先に買収した米携帯電話大手スプリントの経営再建も実現していない中でのさらなる巨大な買収ということで「いい買物だが、あまりに大きな買物」という不安からソフトバンクグループの株価は買収発表で大きく下落した。IoT分野の成長のカギはチップでなくOSやアプリだという声も聞かれる。また、ソフトバンクのように今後もIoT分野でアームに成長してもらって将来的な利益を取り込もうというのではなく、アームの独占的な地位を乱用し短期的に稼げると考えてロクでもない投資ファンドがアームを買収するという事態が阻止される結果になったので、業界の健全な発展という視点からは御の字だといううがった見方もあるようだ。

ソフトバンクグループの企業買収等の歩み
1996年 米Yahoo!社との合弁でYahoo! JAPANを設立
米メモリー製造会社キングストン買収(99年に損失を出して保有株売却)
2000年 アリババに出資(2016年一部保有株売却、最大2500億円売却益)
2001年 ブロードバンドサービス「ヤフーBB」開始
2004年 日本テレコム買収。固定通信参入
2006年 ボーダフォン日本法人を買収、携帯電話事業に参入
2009年 PHS大手ウィルコムの再生支援で合意
2011年 再生可能エネルギー事業に本格参入
2012年 携帯電話会社「イー・アクセス」を買収
米携帯電話大手スプリント買収で合意
2015年 ロボット事業に参入。「ペッパー」の一般販売開始
2016年 英半導体設計大手アーム・ホールディングスの買収合意。IoT市場拡大に伴う急成長を目指す
(資料)新聞各紙

 図の項目名を掲げておくと、松下電器産業【MCA(米・娯楽)】1990年、日本たばこ産業【ギャラハー(英・たばこ)】2006年、ソフトバンク【英ボーダフォン日本法人(通信)】2006年、武田薬品工業【ミレニアム・ファーマスーティカルズ(米・製薬)】2008年、武田薬品工業【ナイコメッド(スイス・製薬)】2011年、ソフトバンク【スプリント・ネクステル(米・通信)】2012年、サントリーホールディングス【ビーム(米・飲料】2014年、東京海上ホールディングス【HCCインシュアランス・ホールディングス(米・保険)】2015年、日本郵政【トール・ホールディングス(豪・物流)】2015年、ソフトバンク【ARMホールディングス(英・半導体設計)】2016年、武田薬品工業【シャイアー(アイルランド・製薬)】2018年、アサヒグループホールディングス【カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(豪州・ビール)】2019年

(2016年7月21日・22日収録、2018年5月8日更新、2019年7月20日更新、2020年8月4日更新)


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