近年、企業の役員報酬額が公開されるようになり、株主総会が開かれるたびに、日本の企業トップの報酬額が欧米と比較して安価であり、これが正当なのか不当なのか、あるいは好ましいのかどうかが論じられる。欧米の企業トップの高額報酬額には、市場原理に基づき、トップの経営手腕で増加した会社の利益に報酬額は相当させるのが当然かつフェアであるいう経済学的な考え方が背景にあると考えられるが、赤字になったときにその分をトップが逆に企業に支払うのなら確かにフェアといえよう。

 ここでは、欧米と日本の主要な自動車メーカーのトップ報酬額と会社の純利益規模とを対比させた図を掲げた。会社はトップの報酬額の多い順に並べている。

 世界一の自動車メーカーとなったトヨタ自動車の豊田社長の報酬額は2.3億円であり、世界一を競っているゼネラル・モーターズ(GM)のバーラCEOの報酬額14.7億円の6分の1以下である。フィアット・クライスラー(イタリア)のマルキオンネCEOに至っては、31億円と会社の純利益の1%以上の報酬額となっている。

 日産自動車のゴーン社長の報酬額が必ずといって取り上げられるのは、日本企業のトップの報酬額の中では特段に高額だからである。ゴーン社長は欧州出身なので欧米基準で報酬を得て当然と思っているだろうが、会社は日本なので日本的慣習も無視できない。そこで、欧米の主要自動車メーカーのトップたちと比べると最も低い報酬額となっている。

「日産自動車のカルロス・ゴーン社長の役員報酬が2014年3月期は9億9500万円になり、10億円の大台に迫った。一方、日産の4倍以上の純利益を稼いだトヨタ自動車の豊田章男社長は、前年より4600万円増えたものの2億3千万円だった。

 24日に開かれた日産の株主総会では、株主から報酬が「高すぎる」という意見が出た。これに対し、ゴーン氏は「日本でなく世界の企業と比べて欲しい」と反論した。ゴーン氏が総会で挙げたのは、米フォード・モーターなどのトップの巨額報酬だ=表(これを図示した−引用者)。そのうえで「日本企業の役員報酬は低すぎる。世界から優秀な人材を集められないというデメリットがある」と訴えた。

 多くの国際的な企業は、外部から優れた経営者を招くために巨額報酬を用意する。ゴーン氏もタイヤメーカー幹部から仏ルノー副社長に招かれ、ルノーと提携した日産の社長に就いた。

 一方、日本企業は社内で出世したサラリーマン社長が多い。ホンダの伊東孝紳社長は大学院修了後に入り、技術部門を中心に30年以上勤めて社長になった。14年3月期の報酬は1億5千万円だった。」(朝日新聞2014年6月25日)

 参考までに同じ2014年3月期決算企業の株主総会で明らかとなった上位報酬額を以下に掲げた。トップはキョウデン(本社・長野県箕輪町)創業者の橋本浩最高顧問の12.92億円だが退職金が大半であった。また、2013年3月期に最高額だった日産自動車のカルロス・ゴーン社長は5位(9億9千5百万円)に転落した。


 これについての記事も紹介しておこう。「東京商工リサーチは27日、2014年3月期決算の上場企業で1億円以上の報酬を受け取った役員数が27日時点で273人に達したと発表した。最高額は、東証二部上場で電子回路基板の製造を手掛けるキョウデン(長野県箕輪町)の橋本浩最高顧問の12億9千2百万円だった。企業別では三菱電機が18人と最多だった。(中略)商工リサーチによると、2位はカシオ計算機の樫尾和雄社長で12億3千3百万円、3位は同じくカシオの樫尾幸雄特別顧問で10億8千2百万円だった。和雄氏、幸雄氏ともに創業家の出身。13年3月期に最高額だった日産自動車のカルロス・ゴーン社長は5位(9億9千5百万円)に転落した。

 1億円以上の報酬を受け取った役員数を企業別でみると、三菱電機に続き、三井物産が8人で2位。3位は野村ホールディングスとトヨタ自動車でそれぞれ7人だった。三菱電機は「業績と連動し、役員報酬が増加した」と説明した。」(東京新聞2014年6月28日)

 冒頭図の世界の主要自動車企業とトップ氏名を掲げると次の通り。【フィアット・クライスラー(伊)】マルキオンネCEO、【フォード・モーター(米)】ムラーリーCEO、【フォルクスワーゲン(独)】ヴィンターコルン会長、【ゼネラル・モーターズ(米)】バーラCEO、【ダイムラー(独)】ツェッチェ会長、【日産自動車】ゴーン社長、【トヨタ自動車】豊田章男社長、【ホンダ】伊東孝紳社長。

(2014年6月29日収録)


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