2019年10月から消費税が10%に引き上げられるが、食料品に対しては軽減税率の8%が適用される。外食の10%との仕分けなどいろいろと混乱することが予想されている。図には主要国における食料品への軽減税率の適用状況を示した。

 確かに主要国では食料品に対して軽減税率が適用されている国が多いが、理論的にはそもそも軽減税率は合理的ではないという根強い意見がある。

「複数税率が世界の常識だというのも、理解できない。ヨーロッパで複数税率が多いのは、付加価値税導入前に実施されていた多段階売上税の既得権を継承せざると得なかっただけなので、決して合理的ではない。新たに導入する国々は複数税率を避けてきたのが世界の常識だった。

 新聞も人ごとのように報道しはじめたが、そもそも食料品とそれ以外の消費の区分自体も困難で、さまざまなトラブルのもとになる。

 新聞業界はこういう不合理を知りながら、軽減税率の問題点の報道を避け、その甲斐あって、軽減税率の対象になった。ずるいな〜。」(三木義一青山学院大学長、東京新聞「本音のコラム」2019年9月26日)

(消費税8%引き上げ時のコメント)

 2014年4月から消費税が5%から8%に引き上げられる。これは税率10%までの引き上げの第一段階であり、食料品などの生活必需品の税率を標準税率より低くする軽減税率は10%への引き上げ時に導入されることとなっており、今回は見送られている。ここでは、食料品への軽減税率についてEU諸国の例を図示した。

 財・サービスを購入したときに支払う消費税(欧米では付加価値税)は1954年にフランスで初めて導入され、60年代以降、欧州各国で相次いで採用されてきた。世界に消費税などの間接税が普及し、所得税などの直接税の税率がその分低まると、こうした直間比率の見直しが進まない国の企業や高額所得者は、安い所得税(法人税、個人所得税)の国に逃げてしまう。このため日本も所得税を安くしてきたが、一方、消費税の税率はそれほど高めることができなかった(図録5107、図録4667)。このため、公共事業による景気対策の空振り、高齢化に伴う社会保障の公的支出の増加が合わさって、国の借金は異常な水準へと上昇し、消費税率の上昇は避けられない状況となっていたのである(図録5103)。

 消費税は、累進税率が課せられる所得税とは異なり、定率課税なので、低所得者の負担率が場合によってはゼロとなる所得税などと比べると高く、「逆進性」が大きいと見なされる。これを少しでも是正するため、低所得者において新たに納税が増える分を補うため、給付付き税額控除などマイナスの所得税を支払ってしまおうという考え方があり、実際、適用している国もある(子どものいる世帯への優遇としてマイナスの所得税を与えている例としては図録5130参照)。しかし、もっと一般的なのは、低所得者でも購入せざるを得ない食料品などの生活必需品については、その他と区別して軽減税率を適用するというやり方である。

 高率の付加価値税が一般化しているEU諸国では図に見られるとおり、一方では、食料品でも同じ税率の国もあれば、アイルランド、英国、マルタのように、食料品は税率ゼロという国もある。EU諸国を平均すると標準税率は21.1%に対して、食料品の税率は11.3%と約半分になっている。

 食料品全般(外食、酒類を除く)で消費税を1%分引き下げると5000億円弱の税収減につながるとされる(毎日新聞2014.3.21)。このため、財務省などは軽減税率の対象が広がることを懸念している。軽減税率が導入されると企業取引などで税率の違いを明記した書類を売り手が買い手に発行する必要があるため納税事務が増大するという意見もある。

 EUの多くの国のように食料品などに軽減税率を導入するか、消費増税に当たって負担の増す低所得者や子育て世帯への一回限りの現金給付ではなく、恒常的な対策として、思い切ったマイナスの所得税の制度を導入するか、いずれかであるように思われる。

 軽減税率は、低所得者対策、逆進性の緩和で導入される場合のほか、産業政策、文化政策など他の政策意図で導入される場合もある。どの分野の税率をどの程度の軽減税率にするかは考え方次第のところがある。そこで、軽減税率を求める業界団体と政治家の癒着が深まり、不透明な政治資金が増すというマイナス効果を懸念する声もある。文化政策上の例として、多くの国で導入されている新聞の軽減税率については図録j012参照。

(2014年3月26日収録、2019年9月26日更新図追加)


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