2017年の解散総選挙における与党の公約を受けて、保育・幼児教育の無償化(公的負担)へ向けての政府の取り組みが進みつつある。安倍首相は11月17日の所信表明演説でこう述べている。「幼児教育の無償化を一気に進めます。2020年度までに、3歳から5歳まで、全ての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0歳から2歳児も、所得の低い世帯では無償化します」。

 学校教育費の対GDP比の国際比較は、図録3950で行い、日本の公的支出の低さが際立っていることについてふれた。ここでは、学校に行く前の子どもへの保育サービスや就学前教育(幼稚園教育)への公的支出の国際比較データをOECD, Economic Policy Reforms 2017: Going for Growthから(更新前は、OECD, Society at a Glance 2009)から掲げる。制度の違いを踏まえたデータの読み方についてはコラム参照。

 日本は、対GDPベースで、0.37%と低い水準であることが分かる(32カ国中30位)。特に幼児教育費は0.10%と最低のレベルである。

 北欧やフランスでは保育や幼児教育への公的支出レベルが1%以上と日本の2倍以上である。保育や幼児教育への公的支出レベルが高い国では、2008年との比較でその比率を高めている国が多い。日本などレベルの低い国ではその比率は余り変わっておらず、上位国との差が開いている。少子化対策という側面からも課題は大きいと言える。

 学校教育費の対GDP比の国際比較(図録3950)では、値の低さが年少人口の少なさに影響されている面が大きいことを示す相関図を同時に掲げた。同じように、日本は、少子・高齢化により、幼児人口の割合が小さいので、保育・幼児教育への公的支出が少ないのだろうか。この点を確かめるため、下には、保育・幼児教育公的支出と幼児人口との相関図を掲げた。

 幼児人口が多ければ、保育・幼児教育の公的支出が大きくなる傾向もあるが(図に回帰直線)、相関度は低く(R2=0.0491)、同じ幼児人口比率でも国により、保育・幼児教育に公的支出を割く程度は大きく異なっている。

 日本は、幼児人口が少ないドイツ、韓国、イタリア、オーストリア、ポルトガルといった国々の中でも、最も保育・幼児教育への公的支出は少ない国となっている。

 韓国でも少子化が進んでおり、0-4歳人口の割合は4.5%と日本の4.3%とそれほど変わらない。にもかかわらず、保育・幼児教育への公的支出は0.88%と日本の0.37%の2倍以上となっている。

 この相関図は年少人口の割合が保育・幼児教育への公的支出に影響しているという考えでX軸とY軸の項目を決めているが、逆に、保育・幼児教育への公的支出の多い少ないが年少人口の割合に影響を与えているという因果関係の方向も無視できないと思われる。X軸とY軸を入れ替えた相関図を描けば、そちらを強調することとなる。

 いずれにせよ、少子化がこれまで長く課題となって来ていたにもかかわらず、このような状況では、保育・幼児教育の無償化に向けた国の支援は、余りに遅すぎた感が否めない。

 0〜2歳児、および3〜5歳児の保育率・就園率の国際比較については図録2441参照。


【コラム】各国における保育・幼児教育の制度

 各国で就学前児童に対する保育、教育の制度は種々なので、公的支出の比較もなかなか難しいようである。以下はこの点に関するOECDの2009年段階のコメントを引用する。

「保育への公的支出は私的な支出が中心の国では当然低くなる。韓国や日本では就学前サービスにおいて家計からの支出が大きな位置を占めている。

 地方公共団体が財政上重要な役割を果たし、保育サービスの供給を行っている場合もある。(ノルディック諸国以外では)国全体の支出額を正しく把握するのが難しい場合がある。それは地方公共団体がカナダのように無限定財源などから保育サービスのために多様な資金調達をしていたり、スイスのように地方団体が中央政府に保育支出額の報告を行っていなかったりするからである。こうした問題は連邦政府の国に限られない。オランダでは地方自治体が住民向けの保育サービスを供給し、それを自治体への一括交付金の中から支出している。また、社会的支援対象世帯への保育費支援を賄うため中央政府の労働市場統合対策向けの自治体への交付金を使うことも可能なのである。

...保育支援額を適切に比較するため、小学校への入学義務年齢の違いによるデータ調整が行われている。ノルディック諸国では小学校への入学年齢が7歳であり、それ以前は幼稚園教育である場合がある。比較を厳密にするため6歳児への就学前支出は除外されている(教育費と6歳児数による推計などにより)。同様に、5歳が小学校の入学年齢の国(従って5歳児の保育や就学前教育の支出がない国)では、就学前教育支出は5歳児の小学校児童に対応した支出を付加することで調整されている(オーストラリア、ニュージーランド、英国)。

 オーストラリアやアイルランドのような国では、小学校で就学前(教育)サービスが提供されており、私立学校と公立学校の生徒数の関係で支出データを分けられない場合もある。このような場合は児童1人当たりの支出は現在のところ得られない。」(OECD Family database PF10)

 比較対象として取り上げている国は32カ国、具体的には、パーセンテージの低い方から、ラトビア、米国、日本、ポルトガル、エストニア、チリ、チェコ、ポーランド、スロバキア、オーストリア、アイルランド、スペイン、スロベニア、イタリア、ドイツ、ハンガリー、オーストラリア、メキシコ、オランダ、リトアニア、英国、ルクセンブルク、イスラエル、ベルギー、韓国、ニュージーランド、フィンランド、ノルウェー、フランス、デンマーク、スウェーデン、アイスランドである。

(2009年9月28日収録、2017年4月20日更新、11月28日コメントコラム移行、相関図追加)


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