2012年7月1日から「原発依存度の低下」、「エネルギー自給率の上昇」、「二酸化炭素(CO2)削減」、「地域産業の育成と雇用創出」を目指して再生可能エネルギーの固定買い取り制度がはじまった。この制度については末尾のコラム参照。

 ここでは、この固定買い取り制度における買い取り価格をこの価格で買い取られる期間とともに示したグラフを掲げた。

 風力、地熱、中小水力については、規模の小さな発電の方が高い買い取り価格となっている。最も差が大きいのは風力であり、20kW以上だと23.1円に対して20kW未満であると57.75年と2.5倍の高い買い取り価格となっている。

 同じ買い取り価格にしておけば効率の高い大規模な再生可能エネルギー発電施設の方に傾斜していく筈であり、資源配分としては適正であるとも考えられるが、あえて差が設けてあるのは、小規模な取り組みも地域産業の振興上は有意義、あるいは国民運動的な取り組みとして必要などと考え、資本力のない者への補助金的な機能を持たせているためだろう。

 一方、太陽光については、何故か、規模格差が設けられていない。大規模なメガソーラーも家庭用と同じ42円なのである。太陽光は他の再生エネルギーと異なり規模による効率の差がないと考えられているのか、メガソーラー事業の普及が再生可能エネルギーのシェア拡大の柱と考えて特段の優遇を行っているか、どちらかであろう。

 価格水準が国民負担の観点から高すぎないかどうかと云う点についてはドイツとの比較で論じる新聞があるが(読売2012.7.2社説)、こうした価格差設定の理由と問題点についてももっと報道されて然るべきと思われる。

 その後、案の定、大規模な太陽光発電の環境破壊が問題となった。この間の経緯を簡潔にまとめている坂村健氏の記事は以下である。

「海外と異なり太陽光発電は環境アセスメントが不要だった。そのため風力発電所が設置まで5〜8年かかるのに対し、メガソーラーは1年前後で設置できた。国の固定価格買い取り制度でも破格の優遇がされ、良い投資案件と考えた多くの業者が飛びついた。使いみちのない荒れ地に安く買った中国製太陽電池を並べれば、補助の逆ざやで確実なもうけというのだからこんなうまい話はない。適した土地はすぐ底をつき、結果、乱開発が起きて大変な事になっている。(中略)実は、固定価格買い取り制度を作った当初、普及は業務用でも建物の屋根や屋上に設置するものがほとんどで、地上設置型はほとんどないと審議会は考えていたらしい。それだと環境は壊さないし、地産地消で送電ロスも少ないので合理性はある。しかし当時の政治判断が太陽光を突出して優遇したため、それが乱開発でボロもうけという方向に誘導したように見える」(毎日新聞2018.4.19「坂村健の目:太陽光発電 急成長のひずみ」)。

 ビジネスチャンスを逃さない事業家の孫正義氏が、当時、メガソーラーこそが環境・エネルギー問題の救世主だとキャンペーンを張っていた姿を思い起こす。マスコミもちょうちん持ちをしていた。ボロもうけのうちのどのぐらいが政治家に還流したかが気になるところである。

 再生可能エネルギーの「二酸化炭素(CO2)削減」の効果については図録4140参照。

 2014年度、18年度の見直しについては以下の通り。以前の予想通り、太陽光発電は建設ブームが過熱したので、下方修正が行われている。

2014年度見直し(毎日新聞2014年3月8日)

 太陽光など再生可能エネルギーを電力会社に買い取ることを義務づけた固定価格買い取り制度(FIT)の2014年度の買い取り価格が、7日固まった。

固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り価格
  2013年度 2014年度 変化
太陽光 10kW未満(住宅) 38 37 引き下げ
10kW以上(非住宅) 36 32 引き下げ
風力 洋上風力 22 36 引き上げ
地上風力 22 据え置き
地熱 26 26 据え置き
水力 水路活用型   14 新設
それ以外 24 24 据え置き
バイオマス 39 39 据え置き
(注)1kW時あたりの税抜き価格。いずれも規模の大きい設備に適用される価格。バイオマスはメタン発酵ガス化型

 太陽光パネルの効率向上に加え、「太陽光への偏りが大きい」との指摘を受けて、太陽光(非住宅)の価格(いずれも税抜き)を1キロワット時当たり36円から32円に引き下げる一方、海上に風車を設置して発電する洋上風力の買い取り価格を36円に引き上げ、設置を促進する。

 経済産業省の審議会「調達価格等算定委員会」(委員長・植田和弘京都大教授)が同日、価格案を提示した。月内に茂木敏充経産相が正式に認定する。

 メガソーラーを含む太陽光の非住宅用(設備容量10キロワット以上)の買い取り価格を4円下げるほか、住宅用(10キロワット未満)もパネル値下がりで38円から37円に引き下げる。国や地方自治体の購入補助金がなくなるため、下げ幅は小幅にとどめた。太陽光の価格引き下げは、住宅・非住宅とも2年連続。

 風力は、洋上風力の買い取り枠を新設し、価格を36円とした。13年度まで大型風力は一律22円だったが、洋上の方が建設費用などが高いことを考慮。洋上風力を将来の再生エネの柱に育てる狙いもある。

 設備容量の小さい中小水力では、既存の水路を活用し発電設備などのみを更新する場合の買い取り枠を新設。新たに制度の対象に加え、後押しする考えだ。認定件数が少ない地熱やバイオマスなどは、コストの変化を見極めるため価格を据え置く。
2018年度見直し(東京新聞2018年2月8日)

固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り価格
  2017年度 2018年度
太陽光 10kW未満 28 26
10kW以上2000kW未満 21 18
風力 陸上風力 21 20
洋上風力 36 36
地熱 1万5000kW以上 26 26
バイオマス(未利用材)2000k以上 32 32
(注)1kW時あたりの税抜き価格

2019年度(毎日新聞2019年11月21日)

 家庭の太陽光発電で余った電力を大手電力が高値で買い取る固定価格買い取り制度(FIT)が2019年11月から順次、10年間の期限を迎える。期限切れとなった家庭は従来よりも低価格で大手電力や新電力に売電することになる。これまでの買取件数と買取価格の推移は以下の通りである。

  

【コラム】再生可能エネルギーの固定買い取り制度

 この制度は太陽光など再生可能エネルギーによって作られた電力を、一定期間、一定価格で買い取ることを電力会社に義務づけた制度である。

 これによって生じる費用をまかなうために電力会社は電気利用者(家庭や企業など)に賦課金を課すことになっており、電気料金とともに徴収される。賦課金は使用電気料(kWh)×0.22円(全国一律)で計算される(大量消費事業者や東日本大震災被災者は減免)。これは電気料金約7000年の標準家庭の場合月66円となり、住宅の余剰電力買い取りにかかる「太陽光促進付加金」と合わせると、再生可能エネルギーへの負担は月約100円となると考えられている(東京新聞大図解「再生可能エネルギー」2012年7月1日)。

 再生可能エネルギーのコストを電力料金へ上乗せしていく場合、資金力ある家庭の快適エコ生活や資本調達力のある企業の利益活動を資金力のない家庭の負担で進めていくことの公平性についても議論が必要である。

 以下は東京新聞の読者欄「発言」に寄せられた東京都三鷹市の主婦(73歳)の意見である(2011.5.28)。

「 太陽光促進負荷金なぜ

 四月の電気の検針票に「太陽光発電促進付加金」というものが「二円」計上されていました。うっかり振り込んでしまってから東京電力に問い合わせたところ「お客さまに代わってソーラーパネルを載せているおうちの余った電気を買い上げた費用」とのことでした。

 パネルを載せるのは個人の自由ですが、なぜその余った電気の費用を負担しなければならないのか納得がいかないので、今月は先月の分と合わせて「四円」を差し引いて振り込みました。すぐに東電から電話があり「期日までに支払わないと電気の供給を止める」と言われました。

 来年度から「再生可能エネルギー促進付加金」という名目でさらに負担が増えるそうです。ほとんどの人は口座からの自動引き落としで、自分の口座からこのようなものが引き落とされていることに気付いていないのではないでしょうか。

 私は納得できないので電気を止めてもらうことにしました。支払い期限後の電気なしの暮らしをどうしたものか、思案中です。」

 法律で決めたのだから守れ、原発依存から脱却し再生可能エネルギーを普及させるためには当然だ、というような単純な問題ではないと考えられる。

(2012年7月2日収録、2014年3月8日2014年度見直し記事、2018年2月8日18年度見直し、4月19日坂村健氏記事、2019年11月21日これまでの推移図)


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