人口1人当りのエネルギー消費量は図録4020で見ているが、これは産業用と家庭用のエネルギーを合わせた消費量である。産業用ではなく、家庭用のエネルギーは各国でどのくらい、また、どのように消費されているのであろうか。

 世帯当たりのエネルギー消費量を調べると米国が99GJ(ギガジュール)で世界で最も多く、英国、フランス、ドイツなど欧州諸国がこれに次いでいる。日本は44GJと欧米主要国より少ない。中国、インド、タイ、ベトナムなどの途上国はさらに少なくなっている。

*日本の年間の世帯当たりエネルギー消費量の44GJは、灯油の一斗缶を5.5日に1缶消費する分量である(灯油は1リットル=36.7MJ、44GJ=1,199リットル=66.6缶/年=1缶/5.5日)。

 日本の世帯当たりエネルギー消費量が欧米より少ないのは、暖房が比較的少ないエネルギーで済んでいるためである。暖房に要するエネルギーが少ないのは日本には暖かい地域が多いためのほかに、欧米のような家全体の暖房というよりコタツのような部分暖房の習慣があるためと考えられる。そのため、逆に、風呂入浴の習慣があり、欧米のようにどの部屋も暖かいことを前提としたシャワーのみの入浴で済ませないので、給湯のエネルギー消費はフランスやドイツよりも多くなっている。

 なお、韓国も床下暖房のオンドルを備えていた伝統により暖房のエネルギーがだいたい同じ緯度帯にある日本の東北地方よりも多い。日本で学ぶ韓国人留学生は、よく風邪を引くといわれる。東京はソウルよりずっと暖かいが部分暖房だから居住環境としては実は寒いのであり、この違いに留学生はすぐさまには適応できないので風邪を引くのである。

 照明や家電といった分野は、種々の家庭電化製品の普及や1人1台化の動きによって日本の世帯のエネルギー消費は欧州などと比べて多くなっている。

 中国、インド、タイといった途上国では、主に給湯・調理に要するエネルギー量の差により、都市より農村部の方が世帯あたりエネルギー消費量は大きい。これは、下で見るように、薪や藁(中国の場合は石炭・コークスも)による余り熱効率の高くないエネルギー供給が多量にのぼるためだと考えられる。

 同じ資料から燃料種別データを見てみよう(下図参照)。

 先進国の家庭用エネルギーは、基本的に、電気、ガス、灯油によっていることが分る。この3つのうちでは日本とオーストラリアでは、電気がもっとも多いが、その他の先進国ではガスが一番多い。なお、ドイツでは灯油が多い点が目立っている。

 途上国の農村部では薪が大きなエネルギー源となっている。日本では薪利用はもう消えてしまったが、薪というエネルギー源は途上国の農村部だけでなく、先進国でもある程度は残っている点も興味深い。

 中国(農村)では、消費量55GJのうち、石炭・コークス、薪、農業廃棄物によるものがそれぞれ、8GJ、18GJ、26GJとなっている。石炭・コークスの利用は、中華料理が炒めものを得意とする強い火力を使った調理という特徴をもつ理由となっている点については図録1022参照。石炭をエネルギー源としてはじまった産業革命の祖地である英国では薪が少なく石炭・コークスが多い点で他の先進国と異なっているのも興味深い。


(2015年9月7日収録)


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