エネルギー問題を考える上で基本となる図を掲げた。

 現代文明は石油に深く依存しながら発展してきた。石油は、自動車、電力等の燃料、プラスチック等の化学製品の原料として、高度成長期のいわゆるエネルギー革命の中で石炭に代わって主役の座についた。

 1次エネルギー供給(電力や都市ガス等に転換前のエネルギー供給)に占める石油(原油と石油製品)のエネルギー量の割合は、図のように1955年度には18%のシェアを占めるに過ぎなかったが、1973年度には77%のシェアを占めるに至った。

 しかし、その後1970年代の2回にわたる石油ショックにより、特に1バレル3ドル台であった原油価格が8年間で34ドルまで上昇したことから、省エネとならんで、原子力、液化天然ガス(LNG)、海外炭など石油代替エネルギーへの転換が進み、1次エネルギーに占める石油のシェアは95年度には53.7%、そして2000年度には初めて49.0%と5割を切るに至った。それでもエネルギー供給の主役が石油である状況は変わらない。

 こうしたエネルギー構成についての主要国との比較は図録4050及び図録4052を見よ。図録4050でもふれた理由により、2002〜3年度の原子力のシェアは短期的に減少し、石油、石炭、天然ガスで補う状況となった。

 原子力のシェアは1998年度の13.7%をピークにその後やや低下し、10%前後となっていたが、2011年度の東日本大震災とその際の福島第一原発事故の影響で各原発が稼働をストップし、2011年度は4.2%に落ち込み、その後も、再稼動が実現せず、1%未満で推移している。その分、石油、天然ガスのシェアが大きく拡大した。

 再生可能エネルギーについては、拡大への努力が続けられているが、戦後まもなくの薪炭や水力が大きなシェアを占めていた時期に、なお、及ばない。しかし、再生可能エネルギーと未活用エネルギーの合計が2019年度に1953年度以降ではじめて最大となったのは印象深い。

 発電のタイミングが不安定な再生可能エネルギーの普及には規模の大きな蓄電システムが必要である。2019年にリチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は「リチウムイオン電池は環境問題のどんな分野でさらに貢献できるか」という質問に次のように答えている(毎日新聞2019年10月10日)。

「これからの社会は太陽光や風力発電など再生可能エネルギーに転換していく必要があるが、こうした電気は(発電量の)変動が激しいため(発電で余った電気を充電するための)蓄電池が重要になる。一般家庭向けで蓄電のためだけの設備ではコストが大きいので、電気自動車の蓄電池で電気をためることが望ましい。

 私が開発に貢献したリチウムイオン電池が電気自動車という形でもっと普及し、社会の蓄電システムが整って、最終的には発電所から来る電気の二酸化炭素(CO2)はゼロ、自動車からのCO2もゼロになることを期待している」。

 レーニンの有名な標語に「共産主義とはソヴィエト権力プラス全国の電化である」(1920年)があるが、大規模な中央発電所とつながる全国送電網という極めて効率的なシステムを資本主義国家では不可能なほど早くつくりあげることが共産主義の実現の早道と考えていたのであろう。

 しかし、そのような中央集権的な発電・給電システムが管理者のおごりや腐敗を同時に生み、結局は社会主義の崩壊につながったり、深刻な原発事故を招いたりすることは、今や歴史の教訓であろう。再生可能エネルギーを活用できる自律分散型発電システムへ向かうIT革命ならぬET革命(エネルギー・環境革命)が起きて、真に効率的なシステムが余り遠くない時期に登場する可能性が見えている人もいるのである。

 再生可能エネルギーの発電量の推移は以下の通り。


 なお、再生可能・未活用エネルギーには以下のようなものが含まれる。

a. 自然エネルギー
 太陽・風力・バイオマスなど太陽からの光・熱エネルギーを起源とする非枯渇性のエネルギー源(水力を除く)。
b. 地熱エネルギー
 地球内部からの熱エネルギーを起源とする(非枯渇性の)エネルギー源。
c. 中小規模水力発電
 水力によるエネルギー源のうち、最大出力 0.1 万kW以下の水路式発電設備による水力発電によるエネルギー源。
d. 未活用エネルギー
 廃棄物エネルギー利用・廃棄エネルギー回収など、エネルギー源が一旦使用された後、通常は廃棄・放散される部分を有効に活用するエネルギー源。ごみ処理熱利用、間伐材・家畜糞尿発電、雪氷エネルギー利用などがある。

【コラム】エネルギー利用の長期推移


 英エコノミスト誌(The Economist Mar 10th, 2012)に掲載された米国のエネルギー供給割合の長期推移を上に掲げた。

 この図はいずれの国でもだどるエネルギー利用の歴史的な推移をあらわしていると考えられる。国により特定のエネルギー源が相対的に大きくなることはあっても、またエネルギー転換の時期に遅速はあっても、基本的にはこのような推移をたどるといってよい。

 人類の熱利用は調理から窯業、製鉄へと拡がって行ったが、当初の熱エネルギーの供給源はもっぱら木材だった。人口増加やこうした産業の活性化で森林の過剰伐採が生じ、滅びた文明もある。

 森林の崩壊は別のエネルギー源の開発を促した。熱源としての石炭の利用は、世界史上、中国が先行し、特に宋の時代に本格化した。石炭を利用することによって木材では得られない強い火力が実現したため、煙道立ち竈の開発とあいまって世界に冠たる中華料理を生み(図録1022台所加熱設備の歴史)、また中国で世界最先端の陶磁器、武器、農具が開発されることとなった。

 石炭利用が一段と高度化したのは英国ではじまった産業革命であった。それまでの石炭利用が暖房や直接的な熱利用に止まっていたのに対して、蒸気機関のエネルギー源、すなわち動力源として新たに活用されることとなり、製鉄の高度化による道具から機械への進展とあいまって、世界史を画す産業革命、ひいては資本主義的な生産様式の開始につながった。

 中国や英国では現代でも家庭で、なお、石炭が使用されている様子は図録4030参照。

 そして、さらに新しいエネルギーの形態として電気が開発され、冒頭図録のように石炭から石油へのエネルギー革命が生じ、さらにまた、その後、原子力、天然ガス、太陽光・風力など再生可能エネルギーへと熱源・動力源の重点がシフトしていくのである。


(リンク)

 この図を使った石油・ケミカル産業の分析を含む調査報告書(「内航海運から見た素材型産業の物流コスト効率化に関する調査報告書」)は日本内航海運組合総連合会のホームページ(本文(鉄鋼・石油・ケミカル・セメント))に全文掲載されている(第3部が石油・ケミカル編)ので興味のある方はご覧下さい。


(2005年10月3日更新、2011年3月21日更新、2012年3月14日【コラム】エネルギー利用の長期推移追加、2013年9月16日更新、2015年3月24・25日更新、2019年10月10日吉野彰氏発言、2021年7月22日更新)


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