運動競技能力の男女差(ジェンダー・ギャップ)はどの程度なのだろうか。また、それは競技の種目によってどのような違いがあるのだろうか。

 この点を確認するため、図録には、日本新記録の男女差のデータを掲げた。

 陸上競技と水泳競技を比較すると、前者の方の差の平均が14.8%であるのに対して後者の差の平均は9.0%となっている。水泳の方が陸上と比較して男女差が出にくいようだ。

 何故、水の中では陸上より差が出ないのだろうか。魚が陸に上がって陸の動物として進化し始めてからオスとメスの差が広がったということなのだろうか。

 男女差が出やすいのは瞬発力なのか持久力なのかを見るために、競技の距離で比較してみると、こちらも陸上と水泳で異なっている。

 陸上競技では、短距離でもリレーでも100m走より400m走の方が差が大きいが、それ以上の距離走やマラソンになると再び男女差は狭まる。一方、水泳では、逆に100mから400mへと差は縮まる。自由形、平泳ぎ、バタフライ、背泳のいずれも100mより200mの方が男女差が小さい。自由形で見てそれ以上の距離になると1500mまで男女差は再度広がる。

 なお、陸上競技の男女差の時系列変化については、Mark Dennyは競走競技における男女のスピードの最高限界の関する論文の中で、男性はなお記録が伸び続ける傾向にあるのに対して、女性の方は記録が高原状態に達しているというデータを掲げ(図録3988k)、「私の人間の走りのスピードについてのデータは、Sparlingとその同僚、及びHoldenが達した「現行の男性と女性のジェンダー・ギャップは100mからマラソンまでの競走競技において決して縮まらないだろう」という結論を支持している」と述べている(Mark Denny (2008), "Limits to running speed in dogs, horses and humans", THE JOURNAL OF EXPERIMENTAL BIOLOGY)。

 陸上と水泳以外の運動競技ではどうなのであろうか。

 IOCは、2004年以降、性転換女性の女性競技への参加を認め(当初は性転換手術が条件、2015年以降は血中テストステロン量のみに条件緩和)、多くの競技でその原則が広がっていきつつある。英国エコノミスト誌は、ラグビーの国際団体であるワールドラグビーが、こうした一般風潮に対抗して、安全性の観点からそれを認めない決定を下したことを紹介する記事の中で、運動競技における男性の優位率を調べた論文のデータを掲げている(The Economist October 17th 2020)。以下がその論文データの要約である。

運動競技能力の男性優位率(女性=100)
優位率 競技種目(各種目の並びは%の低い順)
10〜13% ボート漕ぎ、水泳、トラック競走、ロード競走
16〜22% トラック自転車競技、高跳び、マウンテンバイク・ダウンヒル、サッカーのキック、テニスのサーブ、ゴルフのドライバー速度、ハンドボールのシュート、棒高跳び
29〜34% クリケットの投球、バレーボールのサーブ、重量挙げ(ウエイトリフティング)
50%以上 野球の投球、ホッケーのドラッグフリック
(資料)Emma Hilton and Tommy Lundberg(2020), "Transgender women in the female category of sport: is the male performance advantage removed by testosterone suppression?"

 これによれば、10%台前半の男女差である水泳や陸上の競技に対して、自転車競技、サッカー、テニス、ゴルフ、ハンドボールの男女差は水泳、陸上をかなり上回っている。さらに、クリケットやバレーボール、重量挙げでは男女差が3割前後へと広がり、野球やホッケーの主要動作ではもっとも大きい5割以上の差が認められるというデータが示されている。

 オリンピックで全種目を男女混合で行っている唯一の競技は「馬術」である。馬術競技では、馬との信頼関係をいかに築くかが問われるので男女差が余り出ないという。例えば、馬とともに踊るようにステップなど特定の動きを演じ、正確さなどを競う「馬場馬術」では世界ランキングのトップ3を女性が占めているという。また、標的を狙う正確性を競うエアライフル競技でも男女差はほとんどないと見られている(東京新聞2020.12.17「アスリートの性差考<上>)。

(2020年12月18日収録)


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