(2022年カタール大会)

 サッカー・ワールドカップ・カタール大会(FIFAワールドカップ、W杯)が、2022年11月〜12月にドーハ及び半径40キロ以内の近郊都市の8会場で開催されている。

 12月18日18時(日本時間19日0時)から行われた決勝では、アルゼンチンが2度リードし2度追いつかれるというという死闘とも呼ぶべき激戦の末にフランスを3-3(PK4-2)で下した。アルゼンチンのGKマルティネスは試合の苦しい展開で「僕らは苦しむ運命なのだと思った」という。

 フランスの史上3カ国目となる2連覇を阻止したアルゼンチンはマラドーナが活躍した1986年のメキシコ大会以来となる36年ぶり3度目の優勝。今大会での代表引退を明言している35歳のFWリオネル・メッシは5度目の挑戦にして“W杯初制覇”、そして2度目のMVP。最高の形で自らの門出に花を添えた。なお得点王にはハットトリックを達成して通算8ゴールとしたエムバペが輝いた。


 なお、試合後、表彰セレモニーでゴールデングローブ(最優秀GK)を獲得したアルゼンチンのGKマルティネスがグローブ型のトロフィーを股間に持っていって喜びを表現、顰蹙をかった。「ABEMA」解説者の本田圭佑(36)はそれについて「これぐらいふざけるやつじゃないと、PK戦止められないってことですよ」としめた。

 今大会では第1次リーグの段階でジャイアントキリングとも言うべき多くの波乱が巻き起こっている。第1節では日本代表がドイツ代表に2-1、サウジアラビア代表がアルゼンチン代表に2-1と勝利。さらに第2節ではイラン代表がウェールズ代表を2-0と撃破し、FIFAランキング22位のモロッコが世界2位のベルギーを2-0で撃破した。第3節ではチュニジアが前回王者のフランスに1−0で完封勝利。また、オーストラリア代表は昨年の欧州選手権ベスト4のデンマークに1-0で競り勝ち、アジア勢一番乗りで決勝トーナメント進出を確定。そして何と日本がドイツに続いてスペインに2-1の逆転勝利という世界を驚かす大金星。日本が1次リーグトップ通過、ドイツは1次リーグで敗退という番狂わせ。第3戦では韓国代表も強豪ポルトガルを日本と同じ劇的な逆転の2-1で下し12年ぶりで1次リーグを突破した。

 リーグ戦が終わった段階で、前回大会3位のベルギーやドイツ、デンマーク、7大会連続でベスト16入りしていたメキシコ代表といった有力国の敗退が決まった。その一方で、日本、韓国やオーストラリア、モロッコなど下馬評では突破が難しいと予想されていた国が躍進を見せている。

 モロッコの場合はそれどころでなく、スペイン、ポルトガルを制し、アフリカ勢として初めてベスト4に進出した。


 番狂わせが多く生じている背景としては、酷暑が中東やアフリカの選手に有利に働いている点や交代5人制により非強豪国が守備のハードワークを持続させやすくなった点が指摘されているが、さらに、ランクの低い国でもふだんは欧州のトップリーグで活躍する選手が増え、各国代表の実力差が世界的に縮小しているためだと考えられる。

 審判の心理や選手のずるさにより強豪国有利に働きがちの主審の判断が前回大会から導入されたVAR(Video Assistant Referee)の精巧化(オフサイド半自動判定など)で公平になったという要因をあげる者もある。確かに日本戦でのドイツの2点目やサウジアラビア戦でのアルゼンチンの2点目は、いずれもオフサイドで取り消し。入っていれば、流れは変わった。スペイン戦の三笘の1ミリが認められたのも機械の力。VARが勝敗に影響を与えた試合は多い。

 各国代表の実力差の縮小について英誌「エコノミスト」はこう解説しているという。

 今回の大会で下位チームがトップチームを破るという予想外の展開が多く、グループリーグで3戦全勝したチームがいなかったことに示されているように実力差が縮小している要因として指摘できるのは「サッカーがよりグローバル化し、格下のチームのレベルが向上したことだ。無名だったのにベルギーを破ったモロッコには、英チェルシーFCや仏パリ・サンジェルマンFC、セビージャFCに所属する選手たちがいる。対ドイツ戦でゴールを決めた2人の日本人選手は、ブンデスリーガでプレーしている。

 カメルーンやガーナ、セネガルのアフリカの3チームも、ヨーロッパのトップリーグに属する選手で構成されている(一方、サウジアラビアは特殊で、国内リーグの選手によって構成されている)」(COURRIER JAPON 2022.12.5)

(2018年ロシア大会)

 サッカー・ワールドカップ・ロシア大会(21FIFAワールドカップ、W杯)が、2018年6月〜7月にロシアの各都市で開催された。日本代表は決勝リーグを突破したが、決勝トーナメントでは初戦で2点先制するも最後は強豪ベルギーに敗退した(図録3079f)。優勝戦は、フランスがクロアチアを下し、自国開催だった98年大会以来20年ぶり2度目のトップとなった。優勝2回はブラジル(5回)、ドイツとイタリア(4回)に次ぎ、ウルグアイとアルゼンチンに並ぶ4位。欧州勢の優勝は4大会連続となった。クロアチアは準優勝。98年大会の3位を上回る最高成績となった。

(2014年ブラジル大会)

 サッカー・ワールドカップ・ブラジル大会(20FIFAワールドカップ、W杯)が、2014年6月〜7月にブラジルの各都市で開催された。日本代表は決勝リーグで敗退したが(図録3079f)、決勝トーナメントでは毎回と同様熱い戦いが繰り広げられた。ブラジルは準決勝でドイツに1対7の歴史的惨敗となった。

(2010年南アフリカ大会)

 サッカー・ワールドカップ・南アフリカ大会(19FIFAワールドカップ、W杯)が、2010年6月〜7月に南アフリカの各都市で開催された。

 日本代表が予想に反してリーグ戦を勝ち抜く戦いを示したので国民の関心が高まり、日本代表がトーナメント1回戦で敗れたにもかかわらず人気が持続し、世界中で7億人以上が観戦したといわれるスペインとオランダの決勝戦についても、深夜3時からの放映だったが観戦した日本人が多かった。「12日午前3時10分から放送されたサッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会決勝戦「スペイン対オランダ」の生中継(NHK)の午前5時以降の平均視聴率は15.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。午前3時10分〜午前5時の平均視聴率は11.4%で、早朝の放送ながら2ケタの視聴率を記録」したとされる(毎日新聞デジタル7月13日)。

(ベスト・フォー以上の国の戦績ランキング)

 ここでは、1930年以降の19の大会のベスト4まで勝ち抜いた国々の過去の成績を集計した図を掲げた。(なお、日本代表の各大会の戦績の推移は図録3979f、2006年ドイツ大会時の出場国のサッカー関連指標について図録3979aに掲げた。)

 最高の成績をおさめているのは、ブラジルであり、優勝5であるが、ロシア大会もベスト4に残れなかったため、ベスト4では11と相変わらずドイツに次ぐ第2位なっている。

 これに続いてイタリア、ドイツが優勝4で続いている。ドイツは準優勝、3位もかなりあり、ベスト4ではブラジルを上回る13となっている。着実な成績がドイツの特徴であるように思われる。

 次ぎに、アルゼンチン、フランス、ウルグアイが優勝2で続いている。フランスは優勝2であるが、ベスト4では、アルゼンチン、ウルグアイを上回る6となっている。

 南ア大会ではスペインがはじめての優勝となった。スペイン、イングランドは優勝1回であるが、8カ国しか優勝していないので、1回でも価値は高い。

 オランダはまだ優勝はないが、準優勝は3回とドイツの4回に次いで多い。

 ワールドカップ大会の上位国は、サッカーの本場であるヨーロッパと南米の国々で占められている。

 人口小国クロアチアがこれまで準決勝と3位を経験しているのには驚かされる。サッカー熱が著しいクロアチアでは人口当たりのサッカー選手数が世界一である点については図録3979a参照。

 はじめてアジアで開催された2002年韓国・日本大会では、トルコが3位、韓国が4位と初めてアジア勢が進出したことで注目される(もっともトルコは欧州地区選出)。2006年トリノ冬季五輪で荒川静香選手が、冬季オリンピックの華であるフィギュアスケート女子で、日本人初、そして欧米以外、アジアで初の金メダルを獲得した(図録3989参照)が、経済だけでなく、スポーツの世界でも、アジアが台頭している事例といえよう。

 ただ、残念ながら、2006年のワールドカップ・ドイツ大会では、日本、韓国を含むアジア勢はベスト4どころか決勝トーナメントにも残れなかった。2010年南アフリカ大会では日本、韓国は決勝トーナメントに進出したが、それぞれ初回戦で敗退した。世界はそうやすやすとアジアの進出を許していない。

 2022年カタール大会はオーストラリアをふくめてアジア勢が3カ国も1次リーグを突破している。ベスト4まで進出する国は出るかに関心がもたれたが残念ながらアジア勢は勝ち残れなかった。ただモロッコがアラブ諸国の期待の下、アフリカ勢としては初めてベスト4に進出した。

 以下に、各大会のベスト4の国々の一覧表を掲げ、当時の雰囲気を思い出すために最優秀選手を付記した。

サッカー・ワールドカップ大会別成績一覧
開催年 開催地 出場
国数
優勝 準優勝 3位 4位 (参考)最優秀選手
78年以前は得点王
22 2022年 カタール大会 32 アルゼンチン フランス クロアチア モロッコ メッシ(アルゼンチン)
21 2018年 ロシア大会 32 フランス クロアチア ベルギー イングランド モドリッチ(クロアチア)
20 2014年 ブラジル大会 32 ドイツ アルゼンチン オランダ ブラジル メッシ(アルゼンチン)
19 2010年 南アフリカ大会 32 スペイン オランダ ドイツ ウルグアイ フォルラン(ウルグアイ)
18 2006年 ドイツ大会 32 イタリア フランス ドイツ ポーランド ジダン(フランス)
17 2002年 韓国・日本大会 32 ブラジル ドイツ トルコ 韓国 カーン(ドイツ)
16 1998年 フランス大会 32 フランス ブラジル クロアチア オランダ ロナウド(ブラジル)
15 1994年 米国大会 24 ブラジル イタリア スウェーデン ブルガリア ロマリオ(ブラジル)
次点バッジョ(イタリア)
14 1990年 イタリア大会 24 西ドイツ アルゼンチン イタリア イングランド スキラッチ(イタリア)
13 1986年 メキシコ大会 24 アルゼンチン 西ドイツ フランス ベルギー マラドーナ(アルゼンチン)
12 1982年 スペイン大会 24 イタリア 西ドイツ ポーランド フランス ロッシ(イタリア)
11 1978年 アルゼンチン大会 16 アルゼンチン オランダ ブラジル イタリア ケンペス(アルゼンチン)
10 1974年 西ドイツ大会 16 西ドイツ オランダ ポーランド ブラジル ラトー(ポーランド)
9 1970年 メキシコ大会 16 ブラジル イタリア 西ドイツ ウルグアイ G・ミューラー(西ドイツ)
8 1966年 イングランド大会 16 イングランド 西ドイツ ポルトガル ソ連 エウゼビオ(ポルトガル)
7 1962年 チリ大会 16 ブラジル チェコスロバキア チリ ユーゴスラビア 選手名省略(6人)
6 1958年 スウェーデン大会 16 ブラジル スウェーデン フランス 西ドイツ フォンテーヌ(フランス)
5 1954年 スイス大会 16 西ドイツ ハンガリー オーストリア ウルグアイ コチシュ(ハンガリー)
4 1950年 ブラジル大会 13 ウルグアイ ブラジル スウェーデン スペイン アデミール(ブラジル)
3 1938年 フランス大会 15 イタリア ハンガリー ブラジル スウェーデン レオニダス(ブラジル)
2 1934年 イタリア大会 16 イタリア チェコスロバキア ドイツ オーストリア ネイエドリー(チェコスロバキア)
1 1930年 ウルグアイ大会 13 ウルグアイ アルゼンチン スタビレ(アルゼンチン)
(資料)FIFA公式HP、毎日新聞(2018年7月7日)ほか

【コラム】巨大化するワールドカップ・ビジネス

 4年に一度開催されるサッカーのワールドカップ(W杯)大会をめぐって巨大なカネが動いている点がよく指摘される。ここでは、2014年ブラジル大会時における金額的な実態を簡単に見ておこう。

賞 金 収 入
■チーム賞金
・優勝チーム 35億円
(前回南アフリカ大会31億円)
・準優勝チーム 25億円
・3位チーム 22億円
・1次リーグ敗退国日本 8億円
  (プラス準備金 1.5億円)

■賞金総額 576億円
(昨年の野球ワールド・ベースボール
・クラシックWBCの賞金総額15億円、
優勝ドミニカ共和国獲得金3.4億円)
■放送権料 推定2000億円
(前回南アフリカ大会 1800億円)
日本の放送権料約400億円(NHKと民放)
(前回南アフリカ大会「スカパー!」100億円
 −今回は放送権料高騰で撤退)

■スポンサー契約料
(原則2大会パッケージ販売、つまり
南アフリカ大会と併せた契約)
FIFA最高位スポンサー6社(アディダス、
コカ・コーラ、エミレーツ航空、現代自動車
グループ、VISAカード、ソニー)の
1大会総額1000億円超
(資料)東京新聞「巨大化する「W杯ビジネス」(鈴木遍理運動部長)2014年7月1日

(2006年4月19日収録、7月10日更新、2010年7月12日更新、13日視聴率情報追加、2014年7月1日コラム追加、7月12日最優秀選手追加、7月14日更新、2018年6月15日表一部更新、7月7日1978年以前得点王、7月16日更新、2022年11月28日更新、12月1日AERA引用、12月2日更新、12月3日・4日ベスト16対戦図、12月5日・12月11日・12月16日・12月17日コメント改定、12月20日決勝戦)


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