OECDが実施している子どもの国際学力テスト(PISA調査)に対して大人の国際学力テストともいえる成人スキル調査(文科省の命名では国際成人力調査、略称はPIAAC調査)に関して、最も基本的な平均得点の結果は既に図録3936で掲げた(PISA調査の結果は図録3940参照)。このテストの内容についても図録3936参照。ここでは、テスト結果の得点分布の状況から国民の間の知力格差の程度を見てみよう。

 得点分布のばらつきがどの程度であるかを示すグラフを掲げた。図は、得点の低い方から並べて累積5%、25%、50%、75%、95%に当たる人の得点を示したものである。最下層といえる5%目の人とトップ層といえる95%目の人との得点差を折れ線グラフで同時に示している。

 一見して、日本は、他国と比較して、全体に、上方に位置しているとともに、最下層とトップ層との間の得点差が小さいことが分かる。

 50パーセンタイル(中央値)だと1位の日本は2位のフィンランドを8点上回っているに過ぎないが最下層だと2位のチェコを23点も上回っている。トップ層の得点だけで比較すると日本より高い国はあるが、最下層の得点の高さはこのように図抜けて世界一であり、こうした底上げされた均質性が得点ランキング(図録3936)で見た日本人の平均得点の高さにむすびついているのである。

 最下層とトップ層の得点差ランキングを表に掲げたが、日本とは対照的に米国などでは格差が大きいことがうかがえる。毎日新聞(2013.10.17)の坂村健氏記事による、ニューヨーク・タイムズはこの成人スキル調査の結果に関して、「米国でスキルのある労働者が不足しているとしても、実際にはイノベーションが起こる活気のある経済だ。いったい何の問題がある?」などと書いているらしい。国の活力が、ノーベル賞受賞者数などともつながるトップ層の得点の高さによるものか、それとも末端まできびきびしていることを示す最下層の得点の高さによるものかは、見方によるだろう。

得点格差の小さい国・大きい国
(最下層95パーセンタイルとトップ層5パーセンタイルの得点差のランキング)
ランク 格差が小さい国トップ5 格差が大きい国トップ5
読解力 数的思考力 読解力 数的思考力
1位 日本 ロシア スウェーデン 米国
2位 スロバキア チェコ カナダ フランス
3位 キプロス 日本 米国 オーストラリア
4位 チェコ エストニア フィンランド カナダ
5位 韓国 韓国 スペイン 英国
(注)(資料)上と同じ

 こうした日本人の間の知力格差の低さを移民人口割合が小さい点に求める人もいるかもしれないが、すでに図録3936で見たように移民の影響はそれほど大きくはない。

 日本の格差が主要国の中でも小さいことを示すデータはこのほか貧困に関する図録4653、富裕層の所得比率に関する図録4655など結構多いが、日本の格差の大きさを示す唯一といってよい相対的貧困率データ(国民及び子ども)が繰り返し引き合いに出されるのに対して、識者やマスコミによって余りに無視されているのは残念である。

 なお、ここでは示していないが、両親の学歴の程度による得点差では、米国、ドイツが非常に大きいのに対して、日本の場合は、非常に小さくなっており、社会階級が固定的でなく流動的だと考えられる点も日本の格差が小さいことを示すひとつの特徴となっている(図録3939予定)。

 対象24カ国を図の読解力の高い順に掲げると、日本、フィンランド、オランダ、オーストラリア、スウェーデン、ノルウェー、エストニア、ベルギー、ロシア、チェコ、スロバキア、カナダ、韓国、英国、デンマーク、ドイツ、米国、オーストリア、キプロス、ポーランド、アイルランド、フランス、スペイン、イタリアである。

(2014年9月7日収録)


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