文部科学省は2015年7月27日に「学校現場における業務改善のためのガイドライン2015〜子供と向き合う時間の確保を目指して〜」を公表した。これは、日本の教師が学習指導以外の業務に過大な時間をと要しているというOECDの調査結果を受けて、実際に教師が何の業務に負担を感じているかを調査し、その結果や先進事例を踏まえて、業務改善の基本的な考え方や改善の方向性、留意すべき主なポイントを示したものである。

 図には、中学教師について、何%の先生が各業務を負担に感じているかを「負担率」と名づけ、各業務の従事率とともに示した。そして、ガイドラインではデータが「児童生徒の指導に関する業務」と「学校の運営に関する業務」に分けて掲載されているのを考慮し、この2つの種別に全業務の値を示している。これで調査結果の全貌が明らかになると思う。

 コラムで触れた報道記事とは異なって、「生徒の問題行動への対応」が従事者の負担率はそれほど高くはないものの、93.3%の教師がこれに従事しているため、負担を感じる先生の割合では、「通知表の作成」に次いで2番目に高い業務だということが分かる。

 負担率の高い順にトップテンの業務を示すと下表の通りである。「部活動の指導、大会への引率」は、上の記事の通り、負担感率はそう高くないものの従事率は9割以上と高いため負担は決して小さいとはいえない。また、「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」などは一部の先生に負担が強くのしかかっていることから、先生間の業務分担にも配慮が必要なことも示唆されているといえる。

教師の負担感のトップテン(中学校、2014年)              単位:%
順位 業務 負担率 従事率 負担感率
(従事者の)
1 通知表の作成、指導要録の作成 57.3 90.6 63.2
2 児童・生徒の問題行動への対応 51.6 93.3 55.3
3 保護者・地域からの要望・苦情等への対応 49.8 70.0 71.1
4 研修会の事前レポートや報告書の作成 48.8 68.2 71.5
5 学期末の成績・統計・評定処理 48.0 94.5 50.8
6 国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応 45.7 52.9 86.4
7 部活動の技術的な指導、各種大会への引率等 44.3 91.3 48.5
8 週案・指導案の作成 43.9 83.6 52.5
9 日々の成績処理(テスト等のデータ入力・統計・評定) 42.4 94.4 44.9
10 テスト問題の作成、採点 42.3 93.9 45.1
(注)負担率=従事率×負担感率/100

【コラム】誤解を招きやすい文科省の発表と新聞報道


 文部科学省が2015年7月27日に「学校現場における業務改善のためのガイドライン2015」を公表したのを受けて、新聞各紙は先生がどんな業務に負担を感じているかについての調査結果を報じた。上図は朝日新聞の紙面に掲載された調査結果である。報じられた内容の主眼は次の通りである。

「学校の業務を71に分けて負担に思うかを尋ねた。教諭のおおむね7割以上が従事する業務のうち、「負担」「どちらかと言えば負担」の合計が高かったのは「保護者や地域からの要望、苦情対応」と、「研修会の事前リポートや報告書作成」。このほか、負担感だけで見ると「国や教育委員会の調査対応」が9割近くで最も高かった。一方、昨年の国際調査で週7.7時間と参加国平均の3倍を上回った部活指導の負担感は、中学教諭でも48.5%と5割を切った。「負担だがやりがいがある」という答えが多かったという。「授業準備」や「放課後学習」など、授業や子どもと接する仕事は比較的負担感が低い項目が目立った。こうした教員の「本来業務」の時間を取られることも、それ以外の業務の負担感につながっている可能性がある。」

 71業務のうち特定のものが選定されているが、分かりやすく報道されており、論旨は明快である。数字も文部科学省の公表資料通りである。しかも、「国や教育委員会の調査対応」が最も負担感が大きい項目である点に、本来、業務改善をリードすべき公的機関が行っていること自体が業務改善の阻害要因になっているということであり、皮肉な結果である点も興味を引く。毎日新聞や産経新聞もグラフは示されていないが、ほぼ同じ論旨の報道である。

 しかし、話ができすぎていないか。「通知表作成」より「国や教育委員会からの調査対応」の方が負担感が大きいなんて事が本当にありうるのか?

 そこで原資料であるガイドラインを文部科学省のホームページからダウンロードして、よく調べて見た。すると落とし穴があることが分かった。図の数字は、教師のうちの何%が負担に感じているかではなく、教師のうちその業務に従事しているものの何%が負担に感じているかを示しているのである。文部科学省がガイドラインに掲載しているのは、従事率と負担感率の両方であり、従事者の回答結果である後者の高低をグラフにしたものなのである。本文の通り、中学校の教師の場合、「通知表の作成」は90.6%が従事し、そのうち負担に感じるのは63.2%であり、両方を掛け合わせた57.3%の先生が負担と感じている。他方、「国や教育委員会からの調査対応」は52.9%が従事しており、従事した先生の86.4%が負担に感じている。すなわち45.7%の先生が負担に感じているのである。つまり、負担に感じている教師の割合からいえば、「通知表の作成」の方が「国や教育委員会からの調査対応」より負担感が大きいのである。これなら常識的な感覚と合致する。

 文部科学省の数字の公表の仕方が、調査結果そのままなので、やや誤解を招く形だったのと、報道機関が誤解を招く数字の方が面白いし、また、記者が忙しくて、計算しなおす手間がかけられなかった結果であろう。

 そこで、本文では、誤解を招かない形でデータ・グラフを作成し、掲載した。

 調査実施者の結果報告を早呑み込みしたり、報道機関の記事を鵜呑みにせず、自分の実感をもとにデータをよく確かめて適切な計数処理を行うことが、真理を見極め、本当の課題を抽出するためには重要だといえよう。

(2016年6月19日収録)


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