最初に労働時間別の雇用者数分布を見てみると非農林業雇用者5,943万人のうち週49時間以上が1,059万人(17.8%)おり、そのうち60時間以上が374万人(6.3%)となっている。長時間労働者の男女別の内訳は長時間労働ほど男性が多くなっている。

 週49時間以上の労働者の割合は、高度経済成長期には4割を越えていたが、1973年のオイルショック後の経済低迷の中で急減したが、バブル経済期には再度増加して、1988年には39.2%のピークに達した。その後は時短の推進とバブル崩壊の影響で25%程度にまでレベルが低下し、2000年代の前半に一時期景気が良かったため上昇したが2004年の28.1%のピークの後に、再度、低下傾向にある。ただし2017年は一時的に増加している。2020年以降はコロナ禍の影響が認められる。

 49〜59時間と60時間以上との分けて、推移を追ってみると、両方とも減少してきてはいるが、49〜59時間の減少レベルより60時間の減少レベルの方が小さい。すなわち、49時間以上の長時間労働の占める60時間以上の超長時間労働のシェアは大きくなっているといえる。ただし、近年は、ほぼパラレルな動きとなっている。2017年は49〜59時間は増え、60時間以上は減っており、超長時間労働のシェアは縮小した。

 こうした動きをサラリーマン川柳(第一生命保険)で追ってみると(毎日新聞2018.12.21、2018年は東京新聞2019.1.23)

1990年 ビジネスマン 24時間 寝てみたい
1992年 頑張れよ 無理をするなよ 休むなよ
2017年 ノー残業 言われなくても 帰る部下
2018年 ノー残業 趣味なし金なし 居場所なし

 最近は、部下に対しても自分に対しても必ずしも意に沿わないままノー残業デー(残業をしないで定時で退社する日として会社が曜日を決めるなどして設定する)が普及しつつあることが分かる。

 NHKの国民生活時間調査では平日の仕事が10時間以上の長時間労働者の比率が上昇傾向にある点については図録3125参照。

 ここでは長時間労働の比率の推移を追っているが、平均労働時間とも平行した動きとなっている。平均労働時間の推移については図録3100の参考として掲載しているので参照のこと。

 労働力の状況を世帯調査として調べている統計には、労働力調査と就業構造基本調査とがあり、両方で労働時間が把握されているので比較しておこう(下図参照)。


 毎月調査されている労働力調査の調査方式はカレント・アクティビティ方式、労働力調査の標本数拡大版であり数年に一度行われる就業構造基本調査の調査方式はユージュアル・ステイタス方式である。すなわち、労働力調査は月末1週間の実際の労働時間をきいており、就業構造基本調査はふだんの労働時間の状態をきいている。従って、就業構造基本調査の方が主観によって左右されるともいえる。

 就業構造基本調査と労働力調査の結果を比較すると、60時間以上の値については、以前は労働力調査の値よりもかなり低かったのに、2007年〜2017年には、同等かそれ以上の水準へと傾向的に変化した。一方、49〜59時間の値は、上限変動の幅はあるが、ほぼ同等の水準で推移している。こうした結果から、60時間以上という健康を害する可能性のあるような水準の長時間労働(図録3137)については、近年、長期間労働が過労死の要因として問題視されるようになって、回答者も「ふだんの状況」について実態に近い判断をするようになったと考えられる。すなわち、長時間労働が増えていると人々が感じる理由は、実際に長時間労働が増えているからというより、労働者が以前よりも自分の労働実態を正しく認識するようになったからであるということになる。

 長時間労働に占める超長時間労働が増えているのではないか、あるいは、パートタイマーなどの非正規雇用を除いたフルタイム労働者の長時間労働は増えているのではないか、といった疑問も生じる可能性があるので、以下にそうした点を確かめた図を掲載した。

 長時間労働に占める超長時間労働の比率はバブル期までは上昇したが、それ以降は、ほぼ横ばいである。また、フルタイム労働者のうちの長時間労働比率は、バブル期のピークからかなり低下してきている。

 2017年に入って電通の過労死事件から長時間労働による弊害がクローズアップされているが、長時間労働が増えているからとは言い難い。


(2013年6月24日収録、7月13日2012年就業構造基本調査結果公表を受けた更新、2014年5月25日更新、母数を変えた長時間労働比率の図を追加、2017年10月21日更新、2018年7月14日更新、12月21日サラリーマン川柳、2019年1月23日同追加、2020年10月23日更新、2023年7月23日更新)


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