ギャラップ社の国際調査により、ボランティア活動や社会的援助についてのOECD諸国、及び中国、インド、ロシアなど非OECD諸国を含む39カ国の国際比較が行われている(データはOECD報告書による)。ボランティア活動の国際比較は図録3002に掲げたが、ここでは、困っている見知らぬ人を助けたことがあるかという社会的援助の比率についての国際比較を掲げた。

 日本は見事に最下位となっている。トップは米国、2位はニュージーランドである。何か日本人は非常に冷たい国民のように感じられて心苦しくなる調査結果である。

 もっとも、日本では周りに困っている人が少ない、あるいは困っている人を政府や公共機関が助けるシステムが出来上がっているという背景も要因としては考慮に入れる必要があるだろう(困っている人が少ないという点は図録4653参照、また助け合いがなくとも成り立つ社会が人間関係の希薄さを招いている点については、図録9502参照)。

 上位には、米国、ニュージーランド、オーストラリアと旧英国植民地の英語圏諸国が並んでいるのが目立っている(更新前の2007年データでは更新後には対象外となったカナダが米国よりさらに高かった)。小さな政府、経済自由主義を奉じるこれらの国の国民は、困っている人の手助けを政府に頼らない分、自ら乗り出さなければならないと考えているかのようである。

 このデータには、周りに困っている人が少ないかどうかが影響しているという点については、2007年と2012年の変化の状況からもうかがえる。5%ポイント以上この割合が上昇している国としては、ポルトガル、ハンガリー、フィンランド、イタリア、米国、インドネシアがあげられる。2008年秋のリーマン・ショックがもたらした経済危機により困った人が増えた影響がうかがわれるのである。原資料となったOECDの報告書(Society at a Glance 2014)もこう言っている。「困っている人を助けた者の割合は、ギリシャは例外であるが、経済危機の打撃が大きかった国で上がるか下がらなかった」(p.142)。

 逆にこの値が下がった国は経済・社会が安定したしるしと見られないことはない。同時期に5%ポイント以上値が下がった国は、トルコ、イスラエル、スイス、オーストリア、ロシア、中国、ブラジル、アルゼンチンである。

 日本において、家族の絆意識の高まりに反して社会の絆意識が薄れている点、あるいは人助けがしにくい意識にある状況については図録2412参照。

(2010年初掲載の際のコメントの一部)

 ヨーロッパの中では、スウェーデン、デンマーク、フィンランドといった北欧諸国はドイツ、英国などと比べて必ずしもこの値は高くない。困っている人が少ないか、困っている人を助ける組織が機能的に活動しているかであろう。

 日本では困っている人が少ない、また比較的公共機関が機能している点を考慮に入れても日本人の「困っている見知らぬ人」への援助意識はやはり低いと言わざるをえない。これが、年金制度など国家が経営する社会保障への過度の依存の結果、国民の相互扶助の精神が薄れたためだとすると、2007年に顕在化した年金記録問題において政府はそれほど期待できる存在ではないことを知った時の国民のショックはそれだけ大きかったといえよう。政権交代の1つや2つは起こって当然なことだったのであろう。それでは、国民は国や政府の政治指導部やそれを構成する政治家を指弾しているだけで望ましい社会はやってこないことに気づくであろうか。明治の政治指導部が理想的な存在であったと2009年から10年にかけてのNHKドラマ「坂の上の雲」は描いているが、現代の政権や政治家へのイヤミに過ぎないように思える。むしろ、国民のためには、そんな時代は稀有の例外である点を描くべきであろう(図録3967参照)。

 OECD諸国のうち31カ国、非OECD諸国8カ国、合計39カ国が対象となっている。具体的には、OECD諸国は、日本、ギリシャ、チェコ、フランス、トルコ、ポーランド、ベルギー、エストニア、ルクセンブルク、スロベニア、韓国、ポルトガル、アイスランド、メキシコ、イスラエル、スペイン、ドイツ、スウェーデン、ハンガリー、デンマーク、スイス、フィンランド、チリ、オーストリア、英国、イタリア、オランダ、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、米国、非OECD諸国はインド、ロシア、中国、インドネシア、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、サウジアラビアである。

(2010年2月15日収録、2017年5月6日2007・12年比較データ)


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