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 厚生労働省は厚生行政と労働行政を所管しているが、このうち厚生行政の基礎データを得るために実施している国民生活基礎調査では、毎年の世帯票、所得票に加えて3年毎の大規模調査の時だけ使用する健康票において、「悩みやストレスの原因」を複数回答できいている。この項目の年齢別集計結果から日本人が人生をたどる各段階で経験する悩みやストレスの状況をうかがうことができる。

 「悩みやストレスの原因」は「悩みやストレスがある」と答えた者の回答である。最初に、そもそも、「悩みやストレスがある」と答えた者がどのくらいの割合だったかを見ておこう。下図のように、10代から20代へと悩みやストレスが大きくなり、男女ともに30代〜50代にピークとなる。その後、60代〜70代前半にいったん低まった後、70代後半から再度高くなるという経過をたどる。働き盛りを過ぎ、年金暮らしになると、一時期、仕事や生活の悩み・ストレスから解放されるものの高齢になると身体の悩みなどが高まってくるためだと考えられる。

 男女の対比では、各年齢とも女性の方が男性を上回っている点が目立っている。男女差が最も開くのは30代前半であり、最も小さくなるのは85歳以上である。40代後半で男女差がいったん狭まるのは女性が更年期に入るからだと思われる(のんき度についての図録2138参照)。



 「悩みやストレスの原因」のデータについては、舞田敏彦氏がネット版の日経DUALの「人生山あり谷あり:ライフステージ別お悩み一望図」という記事(2014年8月1日)の中で、延べ回答数を100とした割合の年齢別変化を面グラフにし、各年齢における悩みやストレスの種類のウエイトを分りやすく表しており、ここでは、これをさらに男女別に分けて面グラフにし、男女別年齢別にライフステージごとの男女の切実な関心事が何かをうかがい知ることができるようにした。

 さらに2022年更新から表示選択で面グラフではなく、棒グラフで複数回答結果そのものの年齢変化をあらわしたものを見れるようにした。

 これらグラフを見て、まず、気がつくのは、人生の中で面積の大きな4つの重大関心事がある点である。すなわち、「自分の仕事」、「収入・家計・借金等」、「自分の学業・受験・進学」、そして「自分の病気や介護」である。

 このうち、特定の年齢で大きく膨らむ悩みとして、男女ともに、学齢期には「自分の学業・受験・進学」が大きな関心事となるし、また、高齢になればなるほど身体が衰えるため「自分の病気や介護」が重大な関心事となることがよく分る。そして、この2つの重大関心事にはさまれた働き盛りの時期に「自分の仕事」と「収入・家計・借金等」が大きくなっているのである。これが人生の基本線だといえる。

 次に気がつくのは、男女の大きな違いである。男性の場合は、「自分の仕事」と「収入・家計・借金等」に関する悩みやストレスが大きなシェアを占めており、この2つが人生の中心的な関心事を構成しているのに対して、女性の場合は、「家族以外の人間関係」や「家事」、「育児」、「子どもの教育」といった項目もこの2つに劣らない重要性を帯びており、全体として、人生が複層的な展開を示している点である。男性の図は女性と比較するとシンプルなのである。

 女性の場合、人生で長く継続して「家事」が男性より大きな関心事である。また、年齢を経るごとに「結婚」、「出産」、「育児」、「子どもの教育」という次世代の再生産にむすびつく事柄への関心が男性とは比較にならないほど大きくなる。男性の場合は、「結婚」や「育児」、「子どもの教育」で一時期やや関心が高まる程度なのと対照的である。

 こうした違いにより、「自分の仕事」を原因とする悩みやストレスは、女性の場合、男性と異なり、出産・子育て期に凹むM次カーブを描いている。これはちょうど女性の労働力率のM次カーブ(図録1500)に対応した現象といえよう。

 また、「自分の病気や介護」と関連して「家族の病気や介護」の推移を見ると、男性の場合は70歳以上で大きく膨らんでくるのに対して、女性の場合は50歳代から60歳代にかけて大きくふくらみ、その後、80歳以上になると狭くなるのに気がつく。これは、人生の中で、一般的に、男性の場合は、高齢の妻の病気や介護がもっぱら重要となるのに対して、女性の場合は、夫の両親、自分の両親、そして老後の夫の健康や介護の問題が立て続けに大きな関心事となり、80歳以上になるとやっと自分だけを心配すればよいようになるという経路をたどるからと理解できる。この結果、女性の方が男性より概して、「家族の病気や介護」の悩みの程度が大きいのである。

 このように、女性は、悩みやストレスが多様で複雑に人生の各段階で次々と襲いかかる格好になっているのに対して、男は、家計に責任をもつため自分の仕事に力を入れており、ある意味では、それを口実に、家庭や子ども、老親に関するケアやこれらとの関係で生じる種々の問題に関する対処を女性の方に任せてしまっているともいえる。

 なお、男性が70歳以上になるとそれまで小さかった「家事」への悩みがやや大きくなるが、これは、高齢男性が長年連れ添った妻と死別した場合、慣れない家事に苦しむことになるからではないだろうか。また、学齢期の「家族以外との人間関係」が女性において特に割合が高いのは、学校における友人関係の悩みが重大関心事となるからだと思われる。

 表示選択の棒グラフでは、少し視角を変えた見方が可能である。すなわち、男女を比べると、各年齢における悩みの大きさをあらわす黒い部分の大きさが全体として女性の方が大きいことが図から見て取れる。

 これは、「収入・家計・借金等」で女性の方が男性より面積が大きいことに示されているように、男性より女性の方が何かと気苦労が絶えないという理由が第一。

 第二には、「家事」、「育児」、「妊娠・出産」、あるいは「自分の仕事」でなく「家族の仕事」、「自分の病気や介護」でなく「家族の病気や介護」という女性に片寄って課せられているタスクによる悩みやストレスが大きいからである。

 さらに、これに伴うものであろうが、家族あるいは家族以外との人間関係による悩みやストレスも男性より女性の方がずっと大きくなっている。

 こうした悩みとストレスの総量の違いが、男性の方が女性よりのん気である原因であり、また結果であると言えよう。

 少子化や将来の人口減少を踏まえて、男女共同参画社会、女性の活躍、あるいは仕事と家庭の両立に関して、将来の地域社会をどう構想するかについては、いろいろと議論があるだろうが、いずれにせよ、ここで紹介したようなデータなどによって、一生をたどる間に経験する男女の生活上の悩みやストレスが何なのか、また男女の立ち位置の違いが何なのかを十分に踏まえながら、将来のあるべき姿やそれを実現するための対策を考えることが必要だといえよう。

(2015年9月25日収録、2023年9月6日更新、表示選択棒グラフ、9月8日設問文)


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