日本人としての自信の軌跡を追えるような長期継続的な意識調査結果を2つ掲げる。

 第1。統計数理研究所によって「日本人の国民性調査」が1953年以来、5年ごとに戦後継続的に行われている(同じ問を継続しているが問によっては必ずしも毎回聞いている訳ではない)。長期的な日本人の意識変化を見るためには貴重な調査である。この調査はすべて、全国の20歳以上(ただし2003年〜08年は80歳未満、2013年は85歳未満)の男女個人を調査対象とした標本調査である。各回とも層化多段無作為抽出法で標本を抽出し、個別面接聴取法で実施されている。

 ここでは日本人の対外的な自信の軌跡を知ることができる「日本人は西洋人と比べて優れているか、劣っているか」という問に対する回答結果の推移を追った。

 第2。NHK放送文化研究所では1973年から継続して5年おきに、全国の16歳以上の国民5,400人に対する「日本人の意識」調査(個人面接法による)を行っている。2018年調査は7月に行われた。刊行されている報告書は「現代日本人の意識構造 (NHKブックス)」。

 ここでは「日本人は他国民より優れているか」、「日本は一流国か」、及び「外国から見習うべきことが多いか」という問に対する答を追った。

 まず、戦後は日本人の自信喪失状態からはじまった。世界大戦に敗北し、経済力も途上国水準であったため、「西洋人より劣っている」と考える者が「西洋人より優れている」と考える者より多かった。個人的な記憶であるが、私が小学校の時、黒板に先生が1961年と書き、上下をひっくり返しても同じ年をあらわしているなと思った年である。偶然という観念に小学生になって思い至ったとき、「しまった。欧米諸国に生まれていてもおかしくなかったのに自分は偶然日本に生まれてしまったのか」と感じたのを覚えている。もし自分が優れた人間となることが出来ても、日本人に生まれた以上、大したことにはならないと思ったのである。今の小学生には分からない心境だと思うが、恐らく途上国の多くの小学生がそんな風に感じたりしている筈なのだ。まだ日本は途上国だったのだ。日本人の好む音楽も先進国風のロックやジャズでなく、投げやり、センチメンタルなどの感情と隣り合わせのラテン音楽が流行っていた。

 1964年は東京オリンピックの年である。1969年にはGDPが世界第2位となった。経済の高度成長が続き(図録4400参照)、昇る日の勢いの日本人は自信を深めていった。1968年には「西洋人より優れている」と答える者が47%と現在より多くなった。

 1960年代後半から1973年にかけて公害問題が大きく浮上した(1970年公害国会、1973年水俣病一次訴訟判決)。私には当初1973年の自信喪失はオイルショックの影響と思われたが、この調査に継続的に携わっていた林知己夫によれば公害問題による影響だという。そしてその後の自信回復も「公害問題を技術力でクリアしたことによる」とされる(「数字からみた日本人のこころ 」1995年、徳間書店、p.93)。1973年、79年と2次にわたるオイルショックを乗り越えて安定成長を遂げ、1980年代にはハイテクブームが日本に訪れた(図録3500参照)。科学技術と日本型経営に自信を深め、これからバブル経済に突入していく1983年には日本人の何と半数以上(53%)が「西洋人より優れている」と考えるようになった。ジャパン・アズ・ナンバーワン(1979年)が翻訳され日本人自身がそうかも知れないと思っていた時期である。まことに自信過剰な時代であった。

 この統計数理研究所の調査では1983年の前後の78年と88年にはこの問に対する調査が行われていないので5年おきで見たときのピークが不明であるが、日本人は優れているか、日本は一流国かをきいたNHK放送文化研究所の調査では1983年がピークであることがはっきり分かる。

 なお、現在の中国人やひと頃の韓国人などがこうした状況にある。彼らは恐らく日本人や西洋人より自分たちの方が優れていると思っているであろう。我々がそうであったように。

 その後、バブルがはじけ、失われた10年と呼ばれる1990年代になると日本人の自信は急速に失われていった。統計数理研究所調査の「西洋人より優れている」と思う者の比率は1993年には41%、2003年には31%とオリンピック前の水準まで低下した。NHK放送文化研究所の調査では「日本人は他国民より優れている」の比率は1998年に最低となり、「日本は一流国だ」の比率は2003年に最低となった。

 統計数理研究所調査の「西洋人より優れている」と考える者の比率の低下とともに増加したのは「日本人の方が劣っている」ではなく「同じだ」とする意見である。西洋人と日本人との間に優劣があろう筈がないというような単純で合理的な考えに至るのに50年以上かかったのである。まことに人間は自信過剰や自信喪失に揺れる動物であるといえよう。

 2008年には両調査ともに自信の低下には歯止めがかかった。リーマンショック前に行われたNHK放送文化研究所の調査では自信はやや回復している。統計数理研究所の調査は9月のリーマンショックの後に行われた。こちらは自信がかなり回復している。金融危機が米国発であり、日本以上に西洋が厳しい金融危機に襲われたことで自信を一層回復したのであろうか。

 そして2013年の統計数理研究所調査では「西洋人より優れている」と思う者の比率がさらに44%と他の選択肢を大きく上回るに至っているし、NHK放送文化研究所の調査ではさらに自信は回復しピーク時の1983年に迫る上昇を示している。こうした自信回復の状況は世界価値観調査についてのの図録9466にもうかがえる。2011年の東日本大震災の際に被災者をはじめ日本人の行動が世界から高く評価されたこと、2014年9月に2020年オリンピックの東京招致が成功したこと、あるいは、マンガやアニメからはじまり様々な分野の日本文化を評価し、売り出そうとするクールジャパンの取り組みや海外における日本食ブームが広く日本人にも知られるようになったこと、2000年代に入って、自然科学分野における日本人のノーベル賞受賞が相次いだこと(図録3933)、などが影響している可能性があろう。

 ところが、2018年は統計数理研究所調査でもNHK調査でも、自信過剰かも知れないと反省したためか日本人の自信度は再度低下した。

 NHK調査において、「外国から見習うべきことが多い」(キャッチアップ意識)に対して、それを否定する「フロントランナー意識」というべきものの推移を追うと、NHK調査の他の2設問と同様の動きとなっているが、2018年に低下することはなかった。自国に自信はないけれど、外国を見習えばいい訳でもないという新しい方向性が垣間見える。

(2010年3月23日収録、2014年5月20日NHK調査更新、9月8日1973年の自信低落の要因コメント変更、2014年10月31日更新、2019年1月9日更新、2020年7月25日NHK調査第3設問、2021年12月25日更新)


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