内閣府では、少子化対策の政策立案に資するため、5年毎に、日本を含む数カ国を対象とした少子化に関する国際意識調査を実施している。

 少子化の一因は結婚しない男女が増えているからである。そこで、「結婚生活について何が不安か」という問が設けられている。この設問で判明した不安を取り除けば結婚が増えて子どもも増えるだろうという意図である。図にその結果を掲げた。2015年調査では米国と韓国が対象外となったので両国に関しては2010年の調査結果を掲げている。

 日本の場合、「結婚生活にかかるお金」と「お互いの親の介護」への回答が最も高く、各国比較の順位でも1位か2位となっており、これらに対する不安を取り除くことが特に日本では重要であることが判明している。

 ここで注目したいのは、このことではなく、「二人の間でおこる問題の解決」や「二人の相性」への不安が、日本の場合、かなり低く、他国と比較しても最低となっている点である。お金、子どもの問題、親との関係など、夫婦にふりかかる様々な困難に対しては他国並みかそれ以上の不安を抱えている日本の夫婦であるが、当人同士のトラブルについては他国と比べてかなり心配度が低いのである。

 これは図録1539(日本の夫婦の別居比率は世界最低)や図録2428(日本の夫婦ほど大切なことを相談し合う国民はない)で見たように、夫婦仲が良い結果と見なすことも可能だが、単純にそうともいえない。

 日本と対照的なのは米国である。米国人夫婦にとっては生活上の困難を上回って当人同士の関係が円滑かどうかに不安が集中している。

 世界の家族関係について実地調査を行った著名な社会人類学者である中根千枝氏によると、親から独立した小家族を古くから理想としてきた米国では、家族の中で夫婦関係は何よりも優先されるべき関係だという信条に立っており、夫婦関係は「夫婦の子供ですら遠慮する関係」といわれる(「家族を中心とした人間関係」p.129)。だから、ここで見られるように、夫婦同士がうまく行くかは、大変な心配であるようなのである。

 米国人が、大事なことを最初に妻あるいは夫に相談し、意見が食い違って夫婦関係が壊れるなんてことは避けたいと思うのが当然である。従って、図録2428のように、気軽に夫婦が相談しあうというようなことにはならないのであろう。言い争いになったとして最も関係が壊れにくい母親との相談が多くなるのも分かる気がする。お互い構えることのない空気のような存在が理想であるような日本人の夫婦関係とは対極的なかたちだといえる。

 つまり、米国人夫婦は、必ず仲良くしなければならないと思うから夫婦間に問題がいろいろ生じるのに対して、日本人夫婦はそう仲良くしなくともよいと思っているから、結果としてトラブルも生じにくいのであろう。「夫婦喧嘩は犬も食わない」ということわざは英語にはない。

 善悪の問題は別にして、日本の夫婦は、米国のように夫婦関係それ自体が人生の目的なのではなく、ムラ社会やその特徴をひきつぐ日本社会における最小単位の下位システムの役割を引き受けるという側面が強かったし、今も強い。このため、社会習慣として、夫婦はなるべく正面切って向き合わないなど、仲が悪くならないような工夫がはりめぐらされている。日本の夫婦は「仲が良い」というより「仲が悪くない」のである。

(2018年4月9日収録)


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