○世界のHIV/エイズの感染の現状

 日本ではHIV/エイズの感染者の発見数が拡大している状況にあるが(図録2250参照)、世界ではどのような状況であろうか。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告によれば2005年末で世界のHIV感染者数は3,860万人(成人感染率1.0%)、2005年中の新たな感染数は410万人、同年のエイズ死亡者数は280万人とされている。新たな感染者の比率は1990年代後半がピークだったと考えられている。

 上記マップには2003年末における世界各国のHIV成人感染率の分布を示した。感染率の高い国から数値を以下に示したが、スワジランドが世界最高の33.4%、ボツワナが第2位の24.1%などアフリカ南部の感染率の高さがひときわ目立っている。

HIV成人感染率(上位10位)
順位 国名 成人感染率(%)
2005年 2003年
1 スワジランド 33.4 32.4
2 ボツワナ 24.1 24.0
3 レソト 23.2 23.7
4 ジンバブエ 20.1 22.1
5 ナミビア 19.6 19.5
6 南アフリカ 18.8 18.6
7 ザンビア 17.0 16.9
8 モザンビーク 16.1 16.0
9 マラウイ 14.1 14.2
10 中央アフリカ 10.7 10.8
(注)この他は末尾原データ表参照

 こうした国は、エイズによる死亡率の高さもあって平均寿命も30歳代か40歳代と非常に低くなっている(図録1620参照)。

 日本は増加の傾向にあるが、感染率的には0.1%未満と低いレベルである。

 以下では、2005年の国連合同エイズ計画(UNAIDS)報告等によって、エイズ拡大の経緯や地域別の状況を示した。

○HIV/エイズの感染拡大の歴史

 世界全体の感染者数(率)の推移は以下の図の通りである。



 世界へのHIV/エイズの感染拡大は以下のような経緯をたどってきた(国立感染症研究所武部豊「感染症の話−エイズ」による)。

1970s半ば 中央アフリカの地域
 ・当初、風土病
 ・内戦、難民、売春、交通発達を通じて拡大
1980s カリブ海、欧米、ラテンアメリカ
 ・男性同性愛者間に拡大
 ・1981米国でエイズ患者初報告
 ・1983病原体HIVが分離・同定
 ・1980s初め、日本で非加熱輸入血液製剤により
  血友病患者・家族に感染広がる
 ・欧米における薬物乱用者(IDU:injecting drug user)の
  注射器回し打ちで感染拡大
1980s末〜90s初 南アジア・東南アジア
 ・1988タイ、インドでIDUs間や売春等による感染拡大
1990s 東欧・旧ソ連・中国
 ・薬物乱用による感染拡大

○世界各地域の状況

<サハラ以南アフリカ>

 サハラ以南アフリカは人口では10%程度であるが、HIV感染者では世界の3分の2を占めている。感染経路は売春、同性愛、薬物乱用から異性間性交渉によるものへと一般化が進んでおり、女性の感染率の高さが問題となっている。特に15〜24歳に関しては女性の感染率が南アでは男性の2倍、ケニヤ、マリでは4.5倍となっている。

 全体としては最近の感染数、感染率は横ばい傾向であるが、ウガンダのカンパラで1992年の感染率29%が2002年には8%まで押さえ込まれるなど東・中アフリカで低下傾向が見られる一方、南部アフリカで感染者数が増大しており、状況は単純ではない。



 医療施設の「非安全注射」が感染経路として主たる感染経路であるとの見方は、各種分析や若い女性の感染率の高さとの不整合から今は神話と見なされている。

 アフリカ南部の突出した感染率の高さは注目を浴びている。下図に示したようにこれは1990年代に顕著になった傾向であるが、次のような複合的な要因によるものとされている。

・貧困と社会の不安定(それによる家族の崩壊)
・性感染症の一般的高レベル
・女性の地位の低さ
・性的暴力
・感染拡大期のおける効果的なリーダーシップの欠如
・移民労働制とむすびついた高い人口の流動性



<アジア>

 アジアの感染拡大は、薬物乱用、男性同性愛、売春が中心であった。中国、インドは感染率ではそれぞれ、0.1%、0.9%とそれほど高くないが、人口が大きいので感染者数は多い。中国ではHIV感染者数が有効な手が打てないと2010年までに1千万人に拡大するともいわれている。

 タイでは新感染者数が1991年に14万人と急拡大したが、2003年には2.1万人へと減少している。コンドーム使用の普及や売春宿利用の低下のよるものであるが、異性間交渉や薬物乱用による感染は衰えていない。



<東欧・中央アジア>

 薬物注射でソ連崩壊後感染が拡大した地域である。若者の感染率の高さが特徴であり、HIVポジティブの80%が30歳未満である(西欧・北米では30歳未満は30%)。異性間感染や女性比率の上昇も近年目立ってきている。

<ラテンアメリカ>

 薬物乱用や男性間性交渉による感染が目立った地域である。

<カリブ地域>

 異性間感染や売春による感染、そして女性への感染の高さが目立っている。

<高所得国>

 米国・西欧では、アンチレトロウィルス療法へのアクセス向上によりエイズ死は少なくなっている(米国:1998年1.9万人、2002年1.6万人、西欧:2001年3373人、2002年3101人)。

 ニューヨークでは新しい感染追跡システムが機能しはじめ、2001年の年間データで市の成人の1%以上、マンハッタンの約2%がHIVポジティブであることが判明した。

 高所得国では、男性間性交渉による感染が主たる感染ルートであるが、異性間の感染や薬物注射による感染も無視できない割合を占めている。薬物注射の感染は西欧の報告国で10%、カナダ・米国で25%にのぼる。

 日本の感染ルートについては図録2250参照。

(原データ)
HIV成人感染率世界マップ原データ(高い順)
順位 国名 成人感染率(%)
2005年 2003年
1 スワジランド 33.4 32.4
2 ボツワナ 24.1 24.0
3 レソト 23.2 23.7
4 ジンバブエ 20.1 22.1
5 ナミビア 19.6 19.5
6 南アフリカ 18.8 18.6
7 ザンビア 17.0 16.9
8 モザンビーク 16.1 16.0
9 マラウイ 14.1 14.2
10 中央アフリカ 10.7 10.8
11 ガボン 7.9 7.7
12 コートジボワール 7.1 7.0
13 ウガンダ 6.7 6.8
14 タンザニア 6.5 6.6
15 ケニア 6.1 6.8
16 カメルーン 5.4 5.5
17 コンゴ 5.3 5.4
18 ナイジェリア 3.9 3.7
19 ギニアビサウ 3.8 3.8
20 ハイチ 3.8 3.8
21 アンゴラ 3.7 3.7
22 チャド 3.5 3.4
23 ブルンジ 3.3 3.3
24 バハマ 3.3 2.9
25 コンゴ民主共和国 3.2 3.2
26 赤道ギニア 3.2 3.2
27 トーゴ 3.2 3.2
28 ジブチ 3.1 3.1
29 ルワンダ 3.1 3.8
30 トリニダードトバゴ 2.6 2.6
31 ベリーズ 2.5 2.1
32 エリトリア 2.4 2.4
33 ガンビア 2.4 2.2
34 ガイアナ 2.4 2.4
35 ガーナ 2.3 2.3
36 ブルキナファソ 2.0 2.1
37 スリナム 1.9 1.7
38 ベニン 1.8 2.0
39 パプアニューギニア 1.8 1.6
40 マリ 1.7 1.8
41 シエラレオネ 1.6 1.6
42 カンボジア 1.6 2.0
43 スーダン 1.6 1.6
44 ギニア 1.5 1.6
45 バルバドス 1.5 1.6
46 ジャマイカ 1.5 1.5
47 ホンジュラス 1.5 1.5
48 タイ 1.4 1.4
49 ウクライナ 1.4 1.3
50 ミャンマー 1.3 1.4
51 エストニア 1.3 1.1
52 ニジェール 1.1 1.1
53 モルドバ 1.1 0.9
54 ロシア 1.1 0.9
55 ドミニカ共和国 1.1 1.2
56 セネガル 0.9 0.9
57 ソマリア 0.9 0.9
58 インド 0.9 0.9
59 エルサルバドル 0.9 0.9
60 グアテマラ 0.9 0.9
61 パナマ 0.9 0.9
62 ラトビア 0.8 0.6
63 モーリタニア 0.7 0.7
64 ベネズエラ 0.7 0.6
65 モーリシャス 0.6 0.2
66 スペイン 0.6 0.7
67 米国 0.6 0.6
68 アルゼンチン 0.6 0.6
69 コロンビア 0.6 0.5
70 ペルー 0.6 0.5
71 マダガスカル 0.5 0.5
72 マレーシア 0.5 0.4
73 ネパール 0.5 0.5
74 ベトナム 0.5 0.4
75 イタリア 0.5 0.5
76 ブラジル 0.5 0.5
77 ウルグアイ 0.5 0.4
78 フランス 0.4 0.4
79 ポルトガル 0.4 0.4
80 スイス 0.4 0.4
81 パラグアイ 0.4 0.4
82 シンガポール 0.3 0.3
83 ベラルーシ 0.3 0.3
84 オーストリア 0.3 0.3
85 ベルギー 0.3 0.2
86 カナダ 0.3 0.3
87 チリ 0.3 0.3
88 コスタリカ 0.3 0.3
89 エクアドル 0.3 0.3
90 メキシコ 0.3 0.3
91 イラン 0.2 0.1
92 グルジア 0.2 0.1
93 リトアニア 0.2 0.1
94 ウズベキスタン 0.2 0.1
95 デンマーク 0.2 0.2
96 ギリシャ 0.2 0.2
97 アイスランド 0.2 0.2
98 アイルランド 0.2 0.2
99 ルクセンブルク 0.2 0.2
100 オランダ 0.2 0.2
101 ユーゴスラビア 0.2 0.2
102 スウェーデン 0.2 0.2
103 英国 0.2 0.2
104 ニカラグア 0.2 0.2
105 中国 0.1 0.1
106 オーストラリア 0.1 0.1
107 フィジー 0.1 0.1
108 ニュージーランド 0.1 0.1
109 インドネシア 0.1 0.1
110 ラオス 0.1 0.1
111 パキスタン 0.1 0.1
112 アルメニア 0.1 0.1
113 アゼルバイジャン 0.1 <0.1
114 カザフスタン 0.1 0.1
115 キルギス 0.1 <0.1
116 タジキスタン 0.1 <0.1
117 チェコ 0.1 <0.1
118 フィンランド 0.1 0.1
119 ドイツ 0.1 0.1
120 ハンガリー 0.1 0.1
121 マルタ 0.1 0.1
122 ノルウェー 0.1 0.1
123 ポーランド 0.1 0.1
124 アルジェリア 0.1 0.1
125 レバノン 0.1 0.1
126 モロッコ 0.1 0.1
127 チュニジア 0.1 0.1
128 キューバ 0.1 0.1
129 ボリビア 0.1 0.1
130 コモロ <0.1 <0.1
131 日本 <0.1 <0.1
132 モンゴル <0.1 <0.1
133 韓国 <0.1 <0.1
134 アフガニスタン <0.1 <0.1
135 バングラデシュ <0.1 <0.1
136 ブータン <0.1 <0.1
137 ブルネイ <0.1 <0.1
138 フィリピン <0.1 <0.1
139 スリランカ <0.1 <0.1
140 ボスニア・ヘルツェゴビナ <0.1  
141 ブルガリア <0.1  
142 クロアチア <0.1  
143 ルーマニア <0.1  
144 トルクメニスタン <0.1  
145 スロバキア <0.1 <0.1
146 スロベニア <0.1 <0.1
147 マケドニア <0.1 <0.1
148 エジプト <0.1 <0.1
(資料)2006 Report on the global AIDS epidemic, UNAIDS/WHO, May 2006.

(2005年7月4日収録、2006年11月28日更新)


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