東京新聞2006.1.29(大図解)によれば、ハンセン病、同制圧目標、これらに関する世界各国の状況は以下の通りである。

ハンセン病

 ハンセン病は、らい菌による慢性の感染症である。感染力は弱かったが皮膚の傷口から感染していた。かつてはらい病と呼ばれていたが、1873年、ノルウェイのハンセン博士がらい菌を発見したので、ハンセン病と呼ばれるようになった。

 治療しないと、皮膚、神経、手足、目への傷害を引き起こすが、薬を服用することで半年から1年で完治する。早期発見ならば、後遺症を予防することができる。らい菌は治療開始後の数日で伝染力を失い、軽快した患者と接触しても感染することはない。

 韓国ドラマの歴史物人気作「茶母」「ホジュン」では、かつての患者隔離・差別とそれへの克服努力が描かれていた。このページ末尾に、基本知識について百科事典から引用しておく。

制圧目標

 世界保健機関(WHO)は、その国の人口1万人あたりのハンセン病患者数が1人以下になることを「公衆衛生問題としてもハンセン病の制圧」と定義している。ハンセン病専門の療養所は必要なくなり、一般の保健サービスで対応可能となるとされる。WHOは1982年、ダプソン、リファンピシン、クロファジミンの多剤併用療法(MDT)を発表した。劇的な効果があり、これまでに世界で約1400万人を完治させた。世界保健総会は1991年、世界全体で2000年までに制圧するとの目標を掲げ、達成したが、国ごとでは、05年の年初時点で9カ国が達成していない。

コロニー

 かつてはハンセン病は「不治の病」と恐れられ、患者は差別されていた。ハンセン病を発病すると、家を出て患者が集まる村(コロニー)で社会を送ることが多かった。コロニーはほぼ世界のどの国でも見られた。

 日本はかつて、日本本土と植民地支配した朝鮮半島、台湾などに「療養所」を設立し、1931年制定の「らい予防法」をもとに、患者を国家権力によって強制収容してきた。誤った政策であったが、是正が大幅に遅れ、96年になってやっとらい予防法が廃止された。2003年熊本県のホテルで起きた回復者への宿泊拒否問題に見られるように、社会の差別は解消されていない。

インド

 世界各国でハンセン病制圧、回復者差別撤廃にむけての取り組みがなされているが、世界最多の患者を抱えるインドでは2000年から、制圧を目指して大規模な啓発運動を展開している。

 現在までの調査の結果分かっているだけで国内に約630のコロニーが確認されいる。2005年12月には、これらコロニーの代表者が差別撤廃と人権保護を訴える集会を開いた。インドの回復者らが全国規模の集会を開くのは初めてで、画期的と評価されている。メイラ・クマル社会正義・認可大臣が出席して、積極的な活動を表明した。

参考:ハンセン病についての平凡社大百科事典の記述。

「癩(らい)菌は皮膚の小さい傷から侵入し、皮膚の中の神経を通って人体内で徐々に増殖するため、潜伏期は3年から10年以上に及ぶものと考えられている。感染源としては皮膚病変分泌物や鼻汁が主であるが、感染は起こりにくい。非衛生的な環境が発病を促進する。」

 治療には、「ジアミノジフェニルスルフォンなどのスルフォン剤の内服がよく効き、初期ならば完全に治癒する。リファンピシンも有効であり、どちらも長年継続する必要がある。癩性結節性紅斑にはランプレン(商品名)が用いられるほかサリドマイドもよいといわれる。顔面や手足の変形は手術やリハビリテーションによってかなり回復できる。」

 「〈らいの予防、およびらい患者の医療・福祉を図るため〉に、旧法(1907年)に代わって1953年に制定された」らい予防法は「癩、すなわちハンセン病に対する特効薬(プロミンなど)が発見され、かつきわめて感染力の弱い伝染病であることが判明したにもかかわらず、全国13ヵ所の国立療養所などへの強制入所や優生手術その他の差別的規定が残っており、〈強制隔離を容認する世論の高まりを意図するもの〉と従来から強い社会的批判の対象となっていた。全国ハンセン病患者協議会などの入所者団体の運動(〈予防法闘争〉)の成果もあって入所者の実質的処遇は徐々に改善されてはいたが、国際的非難が高まってきたことなどをきっかけとして、1995年4月日本らい学会(1996年に〈日本ハンセン病学会〉と改称)が〈長期にわたって現行法の存在を黙認したことを深く反省する〉として長年の方針を転換、予防法廃止を求める見解を発表し、96年3月に同法は遅まきながら廃止された。」

(2006年2月7日収録、3月20日コメント・参考追加)


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