日本の急性期医療のレベルは高いのか低いのかを脳梗塞致死率の国際比較から見てみよう。

 データの出所であるOECDの報告書では「脳卒中のような死亡する可能性のある疾患での入院30日以内死亡率は急性期病院の質的評価として広く認められている指標である」と述べている。

 図にかかげたデータは、最初に入院した病院での入院後30日以内の虚血性脳卒中(脳梗塞)患者の死亡率である。対象は45歳以上の患者であり、死亡率は年齢調整後の指標である。従って、各国の高齢化の程度の違いの影響は除かれている(高齢者の多い国では患者も高齢者が多くなり、それだけ死亡率も割高となる)。

 OECD諸国の平均では、2017年の値は100人当たり7.6人であり、10年前の2007年の10.0人から改善している。両年度のデータのある国は、コロンビアとラトビアを除いていずれの国でも改善が見られる(米国は同じ値)。病院アクセスの改善や治療法の発達で、概して、急性期医療の救命率は上昇しているといえる。

 2017年の値の各国比較では、日本が3.0人で最も低く、韓国、ノルウェー、アイスランド、トルコ、米国と続いている。

 日本の急性期医療の水準はこの指標で見る限り、世界最高峰といえよう。

 我が国では、脳梗塞は、昭和の時代には「命に関わる病気」、平成半ばまでは「(麻痺などの)後遺症が遺る病気」と恐れられていたが、医療・リハビリテーションの進展により、今では、発症直後(数時間以内)から適切な治療等を受ければ、発症前の生活に戻ることができ、介護の必要もない状況で暮らし続けることができるケースが多くなっているとされている(図録2080)。

 もっとも脳梗塞に関しては、病院アクセスや治療技術の水準だけでなく、血管の健康水準の改善により、日本人がそもそも脳梗塞では死亡しにくい体質になっている影響の側面も無視できないかもしれない(図録2090、図録2120を参照)。そういう意味では急性期医療の水準の判定には、脳梗塞以外の入院後30日死亡率の指標も組み合わせた方がよいだろう。

 主要国の中で成績が悪い点が目立っているのは英国である。2007年の15.3人から2017年の8.8人へと大きく改善してはいるものの、なお、OECD平均を大きく下回っている。これは病院の医療技術のレベルの問題というより、1990年代に進んだコスト抑制策による医療アクセス悪化の影響が残存しているためとも見られる(図録1900「コラム2」参照)。

(2021年9月12日更新、2022年4月12日脳梗塞コメント)


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