女性の労働についての基本グラフである女性の年齢別労働力率について、図録1500で各国比較を行ったが、ここでは、1960年からの変化を追った。1975年からはほぼ10年ごとの変化を図示している。

 日本の推移を評価するため、オランダ、フランス、スウェーデン、イタリア、米国といった欧米におけるやはり10年ごとの推移と比べた。韓国についても日本と似た例として掲げた。

 1960年頃については、欧米では女性の労働力率は年齢を通じてかなり低く、専業主婦が多い社会構造であったのに対して、日本は、当時は農業の比率が高く、労働力率は欧米と比べ比較的高かった。後に日本と似たパターンとなる韓国であるが、1960年の段階では欧米と同様に女性の労働力率は低かった。

 その後、欧米では、年齢層を通じて労働力率が速いテンポで上昇した。いわゆる女性の社会進出が潮流となったのである。フランスやスウェーデンでは1980年代後半に、米国でも1990年代後半には労働力率の上昇は頭打ちとなった。ドイツやかなり労働力率の低い水準からはじまったオランダ、イタリアでは2005年段階まで上昇が続いていた。

 特に、スウェーデンの1985年までの全年齢層での急テンポな労働力率の上昇が目立っている。スウェーデンは第2次世界大戦に参戦せず被害も蒙らなかったため、ヨーロッパの戦後復興需要を引き受けることで経済を急拡大させ、その結果、極端な労働力不足を経験した(筒井淳也「仕事と家族」中公新書、2015年、p.86)。こうした背景の下、社会民主党政権は、家庭からの女性の解放という理念と高度経済成長を実現するため、女性の社会進出、女性の就業率の上昇を意識的に図った。こうした事情が急テンポの労働力率上昇にむすびついたのである(下図参照)。


 「しかし1960年代までのスウェーデンでは、女性が働きやすい環境はあまり整備されておらず、そのせいで出生率が急低下し、また「家庭の危機」が1970年代まで続く自殺率の上昇を生み出したといわれる」(筒井前掲書)。社会民主党エランデル政権(1946〜69年)は、女性が家庭から奪われることによる「家族の崩壊」(武田龍夫)に対して、国全体が家となる「国家の家」という社会民主党の理念の下に社会を再統合するため、子育てをはじめあらゆる面で家族をケアする福祉政策を次々と実行し、その福祉をまかなうために1960年代から増税政策に転換、今日の高福祉・高負担の経済社会(スウェーデン・モデル)を創造したという(北岡孝義「スウェーデンはなぜ強いのか」 PHP新書、2010年 )。

 当時のスウェーデンの出生率の急低下については図録1550参照。また、1970年までのスウェーデンの自殺率の上昇については図録2774参照。

 スウェーデンのイングマール・ベルイマンは私の最も好きな映画監督である。感銘を受けた代表作の制作年次を挙げると以下である。

 1957年 『第七の封印』
 1957年 『野いちご』
 1963年 『沈黙』
 1966年 『ペルソナ』

 神と対話できない喪失感の中で超自然的な力だけが目立つ奇妙さ、そして世俗的な救済の予感(第七の封印)、空虚な人間関係から照らし出される失われた家族の記憶への限りない哀惜(野いちご)、癒しの社会システムから遠く離れなければそんなに空虚さが目立たない筈であった剥き出しの欲望(沈黙)、ケアに可能性がない場合でもケアは空虚さからの救済の希望(ペルソナ)といった点でこの時期のスウェーデンを象徴しているのかも知れない。スウェーデンでは早くから神を信じれなくなっていた(図録9522、図録9528)。

 今やキャリアウーマンの祖国のように思われている米国も、かつては専業主婦の国だったことを忘れてはならない。転換を象徴する映画に「ミルドレッド・ピアス」(1945年公開、マイケル・カーティス監督、ジョーン・クロフォード主演)がある。レストラン経営で大成功した主人公の母親に贅沢させてもらっているのに、甘やかされたワガママ娘が、その母親に対して働く主婦はいやしいとを見下して次のようなセリフを吐けるのは、専業主婦が当然と言う社会思想があったからなのだ。「お金がいるのはママから逃げるためよ。パイや脂の匂いのママや、ウェイトレスや労働者ばかりの町から。高い服を着たってレディにはなれないわ。ママは所詮雑貨店の店主の娘だもの」。

 この10年の欧米各国の動き(ドットつき線から太線への動き)で目立っているのは上方シフトではなく右シフトである。すなわち、高齢化の進展の中で、中高年女性の働く比率が高まっているのが特徴である。ただし、米国はこうした動きを先取りしていたようであり、この10年の間ではそうした変化は認められない。

 日本と韓国では、なお、労働力率のカーブの上方シフトが目立っている。

 日本では1960年から1975年にかけて、出産・結婚を契機に労働力率が下がるいわゆるM字カーブが形成された。その後、M字の切れ込みが弱まる形で全般的な労働力率の上昇が徐々に進んできているが、なお、年齢全般にわたって80%をこえるようなヨーロッパの高い労働力率の水準には至っていない。やや労働力率の水準の低い米国やイタリアとは、M字カーブの有無を別にすれば、ほぼ肩を並べる水準となっている。

 韓国は1975年以降、日本と非常によく似通ったパターンが形成されている。1995〜2005年に結婚年齢・出産年齢が遅くなるにつれて20歳代後半の労働力率が高まった点も同様である。韓国の場合は、さらに2015年にかけてもこうした若年層における労働力率カーブの右シフトが進んでいる。それだけ少子化の影響が大きいとみられる。

 日本における近年のM字カーブの解消が子育てと就業の両立によるものではない点については図録1510参照。

(2007年7月30日収録、2010年7月26日スウェーデン・データ追加、8月3日韓国データ追加、2016年2月24・26日ベルイマン「第七の封印」追加、2017年2月23日更新、スウェーデンについてのコメント補訂、4月27日国調速報集計から確報に、2018年4月16日「ミルドレッド・ピアス」) 


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