老後の生活が経済的に安心だとする者の割合は、日本の場合、32%とロシアの20%、イタリアの23%に次いで低い値となっている。

 高齢化の状況の国際比較については語られ尽くしているようにも感じていたが、老後の安心に関する国民意識の違いがこれほどだとは、この度、発表されたPew Reserch Centerの高齢化に関する報告書を見るまでは思いも寄らなかった。

 老後の経済的な安心度(老後に不自由しないほどの生活費を得られると安心しているか)について、21カ国の結果を調べた同報告書によれば、経済成長率の高い国ほど、安心度が高く、経済の伸びが低迷している国ほど、安心度が低いという一般傾向が認められる。中国、ブラジル、ナイジェリアといった成長率の高い国では7割を大きく上回る者が、将来の老後の生活は経済的に安心と回答している一方で、日本やイタリアといった経済が低迷している国では、安心度が20〜30%前後と低くなっている。

 これは、成長率の高い国では、将来、老後に得られる所得水準が上昇していくという予想をもつ人が多いという要因に加えて、成長率の高い国は現在の所得水準が低い国が多く、老後の不自由しないほどの生活費の水準がそう高くないという要因が働いているだろう。普通の日本人が老後に期待する生活水準は中国人にとって不自由を感じない生活水準を大きく上回っていると考えないと日本人の安心度の低さを理解できない。

 なお、日本やイタリア以上にロシアの値が低いのは、現状は比較的高い経済成長を続けているとはいえ、それがエネルギー資源に依存したものである以上、将来は見通せないという国民意識をあらわしているものではなかろうかと私は思う。

 老後の生活の安心度には、国全体の将来的な高齢化の進展の程度の見込みも関係していると思われる。経済成長率は先進国では概して低い水準となっているが、米国、ドイツ、英国では、老後の生活の安心度は、55〜63%とそれほど低くなく、それに対して、日本、イタリア、特に日本の安心度が低いのは、予測される高齢化の程度がより大きく(図録1157)、それだけ、年金、医療、介護などに関して、より若い世代に頼ることが難しいと予想し、また、現時点で、既に将来の若者の負担となる国の借金の対GDP比も大きくなってしまっている(図録5103)という状況により、なおさら、国民が不安を募らせているためだと考えられる。

 この図録のデータとは対照的に、内閣府の国際比較調査では、2010年段階の高齢者(60歳以上)については、日本やスウェーデンと並んで「生活費」の悩みの割合が小さい点が目立っている(図録1218)。今の高齢者は幸せなのだ。世界一の高齢化の予想の下、今はいいけれど、これからは大変という意識が日本人には強いのである。そして、以下に述べるような世代間の意識ギャップがこのような状況を極めて明瞭に示している。

 若年層(18〜29歳)の高年層(50歳以上)に対する老後の生活への安心度の意識ギャップを調べてみると(2番目の図参照)、日本の若年層の安心度は22%と高年層の42%に比して、マイナス20%ポイントと他国に比べギャップが格段に大きくなっている。将来的に若者の負担となる国の借金に加えて、年金など高齢者対策を教育や少子化に関する若年層対策より優先させるなど(図録1587)、社会保障一般に関して高齢層が若年層にしわ寄せしている状況(高齢層が利益を先食いしてしまっている状況)がこうしたギャップの大きさを生んでいると言えよう(社会保障の負担と給付の世代格差については図録2910参照)。

 ナイジェリアやインドネシアなどこれからの経済成長が期待できる国では、先進国とは逆に、高年層より若年層の方が老後の生活の安心度が高くなっているのが印象的である。日本はその正反対の方向が一番顕著なのである。老後の安心に関して、日本ほど、若年層が相対的に暗い国はないのである。わが国の閉塞感の根底にはこうした状況が横たわっていると考えられる。

 関連するデータとしては、同じくピューリサーチセンターの調査結果である図録4532(子ども世代についての将来展望(国際比較))を参照されたい。

 図で取り上げている国は、中国、ブラジル、ナイジェリア、ケニア、南アフリカ、パキスタン、米国、インドネシア、ドイツ、英国、韓国、スペイン、イスラエル、メキシコ、アルゼンチン、フランス、エジプト、トルコ、日本、イタリア、ロシアである。

(2014年5月29日収録) 


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