英国エコノミスト誌は、失敗国家に関する記事(2011.3.19)の中で失敗国家インデックス(Failed states index)の表を掲載している。ここでは、これを図録にした。

 これまで当図録では、UNDPの人間開発指数といった概念の明確な指標を除いて、国際競争力指数など複数のデータからなる合成指標のランキングは結果の解釈が恣意的になりがちなので取り上げてこなかった。失敗国家インデックスも同様の欠点があり、これを取り上げているエコノミスト誌自体が「流行の専門用語か、有用なカテゴリーか?「失敗国家」という用語は多くのもつれたあった状況を覆い隠している」という副題をつけていることからもうかがえるように失敗国家概念には批判的である。こうした見方を含めて興味深い例なので取り上げることにした。

 ここで、「失敗国家」とは、国家が機能しなくなり、内戦や政治の腐敗等によって国民に適切な行政サービスが提供されない国家を指す。

 失敗国家では国民は長く生きられない。図をみれば、失敗国家インデックスの高い国ほど平均寿命も短くなる傾向があることが分かる。

 エコノミスト誌によると、崩壊の危機に瀕した西アフリカのギニアは、自発的に失敗国家だと申し出たということである。

「近隣諸国のほとんどと同様にギニアは、暴力、政府の弱体、貧困、自然資源をめぐる破壊的競争の歴史を有している。ギニアの新政府は国連平和構築委員会(Peacebuilding Commission, PBC)に助けを求めた。このややかさばった組織は、型どおり、コナクリの政府を支えるため「国別会合」方式のタスクフォースを立ち上げることとなる。この委員会は安全保障理事会の要請で、すでに半ダースほどのすべてアフリカの国の援助に乗り出しているが、今回のように自ら危険な状態にあることを国が認めたのははじめてである。」(The Economist March 19th 2011)

 第12位のコートジボワールは、エコノミスト誌によって「内戦前夜(Incipient civil war)、選挙後行き詰まり(post-election deadlock)」と診断されている。コートジボワールでは2010年11月の大統領選決選投票では選管がワタラ元首相勝利を認定したが、カカオ豆産業から巨額の利益を得てきたとされるバグボ前大統領が居座り、国際社会の批判を浴びている中で、3月31日、ワタラ元首相の軍部隊が、落選後も大統領職に居座り続けるバグボ前大統領の拠点である最大都市アビジャンに総攻撃を仕掛け、武力衝突の事態に至った。4日以降、国連平和維持活動部隊や駐留仏軍による軍事介入が実施された。平和維持部隊・国連コートジボワール活動は4日までに、西部ドゥエクエで300人の市民が虐殺されたと認定した。チョコレートの原料になるカカオ豆の価格は。カカオ利権の争奪が激化する中、食糧危機の影響や投機により高騰した。また、3月6日には日本大使公邸襲撃事件がおきたが、侵入したのはバグボ前大統領派の部隊の可能性が高いとされる(毎日新聞2011.4.4〜7)。

 こうした失敗国家ランキングは、各国の情勢変化で上下に変動することが当然想定される。下図には、2006年から2022年にかけての順位の変動をあらわした(注)。2010年当時1位だったソマリアはなお2位の水準とランキングが上位のままの国もあれば、チャドやスーダン、ジンバブエのように当時のように高くはないがなお10位以内に止まっている国もある。また、当時は登場していなかったが最近は上位に浮上したイエメン、南スーダン、シリアといった国もある。一時急上昇したイラクやハイチのように変動の激しい国もある。軍事クーデターがおこったミャンマーは2022年に10位となったのが目立っている(2008年にも12位で図に登場した過去があるが)。

(注)ランキング表は、2006年の発表開始から数年は名称を「失敗国家ランキング」とされていたが、2014年から「脆弱国家ランキング」(Fragile States Index; FSI)に変更されている。


 2010年の図で取り上げたのは、12カ国、具体的にはスコアの高い順に、ソマリア、チャド、スーダン、ジンバブエ、コンゴ、アフガニスタン、イラク、中央アフリカ共和国、ギニア、パキスタン、ハイチ、コートジボワールである。

(2011年4月7日収録、2023年3月28日ランキング推移図)


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