図録0950に日本からのODA供与額が大きい国の各年代毎のランキングを示したが、ここでは、代表として韓国、中国、インドネシアの3カ国について、実際のローン(円ベースの借款である円借款が中心)の総額供与額と元利償還額の毎年の推移を示した。円借款については、白書などで、交換公文ベース、いわゆるコミットメントベースの供与額が示されることが多いが、ここでは実際の供与額であるディスバースメント・ベースの値を示した。

 円借款の供与により、経済発展が進むと、元利償還額がローンの供与額を上回るようになり、経済援助は卒業することになる。典型的なのが、韓国であり、ローンは1960年代半ばからはじまっているが、1980年代には供与額と元利償還額がほぼ同等となり、1990年代にはいると、償還額が供与額を大きく上回るに至り、援助は卒業となった。

 中国は、2008年から元利償還額が円借款の供与額を上回るようになっており、また供与額自体が減少傾向にある。円借款の終了に向けて日中間の合意ができたのち、円借款の支払いは2017年9月26日に完了し、韓国と同様、援助卒業となった。

 対中ODAの歴史について東京新聞は以下のように総括している。「新規の円借款事業は2007年度で終了し、既存の事業のみ貸し付けが続いていた。最後の貸し付けを終えたのは、黄河源流の青海省で08年から始まった総合環境整備プロジェクトで、約5万3千ヘクタールの植林や砂防ダム、水利設備、農牧など総額63億円に及ぶ。(中略)円借款は、中国の改革・開放政策を支援する目的で1979年から始まった。89年の天安門事件で欧米が経済制裁をした際は一時凍結されたが、367件、契約ベースで3兆3,465億円の円借款が実施された。北京や武漢の空港、北京や大連の上水道整備など、インフラ整備などに幅広く利用された。しかし、中国の経済発展や軍事力増強などを背景に、日本国内で対中援助の見直し論が高まり、支援額は2000年の2000億円をピークに減った。中里太治JICA中国事務所長は「中国からの最近の一年当たりの元本返済は約1,000億円に上り、元本、利息とも延滞はなく『優等生』」と指摘」(2017年9月27日)

 図録0950にも示したように、中国を除くと日本の最大の援助対象国はインドネシアであった。インドネシアについては、元利償還額も多くなっており、2004年、あるいは2006年以降は供与額を上回っているが、なおローンの供与額はなお巨大であり、供与額の規模が単純に減少に転じているわけでもない。経済発展が十分な成長軌道に乗るため、なお、長い就学期間が続いている。

 ローンによる援助は、日本の援助の大きな特徴であり、実際効果をあげてきたが、世界全体では、ローンよりグラント(無償援助)を重視する気運が高まっており、日本の援助政策も見直しを迫られている。ここでの韓国や中国のようにローン供与の結果、経済発展が促進されれば、被援助国が助かるばかりでなく、供与国や世界経済も援助をいつまでも続けなくとも良く、また援助国経済にとってもプラスの見返りがあるが、アフリカ諸国のように、なかなか経済発展の軌道に乗れない国が多くなると、むしろ、貧困救済のグラント(無償援助)に援助の重点が移ってしまうのである。

 相手国からの円借款の評価については、日本の新幹線や東名高速道路が多国間援助である世界銀行からの借入で建設されたことを知っている日本人が少ないように、日本の援助で韓国の主要インフラが建設されたことを知っている韓国人は少ない。ただし、識者はそれを承知している。中国についても同様である。

 韓国と日本の国交正常化40周年を記念する国際学術会議が2005年6月2〜4日、ソウル弘恩洞(ホンウンドン)グランドヒルトンホテルで行われた。1954年から日韓会談に参加した経験がある孔魯明(コン・ロミョン)元外務長官(翰林大学日本学研究所長)は「請求権資金が韓国が目指した祖国の近代化と産業化に緊要に使われた事実を正当に評価する国民的度量が必要」とし、京釜(キョンブ)高速道路、昭陽江(ソヤンガン)多目的ダム、浦項製鉄の建設などの事例を列挙した。 しかし「国交正常化当時に合意できなかった歴史認識の問題は、現在でも両国関係に支障をもたらしている」と述べた。(中央日報HPによる)

(2005年5月27日収録、6月9日韓国の円借款評価の部分を追加、2012年9月21日更新、2017年9月27日対中円借款支払い完了東京新聞引用、2023年3月18日更新)


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