1人当たりのアルコール消費量の国際比較は図録1970に掲げたが、ここではその内訳のひとつであるビールの消費量を取り上げた。

 どの国民がビールを多く消費しているかは、普通、キリンビールが世界各国のビール協会などに対して独自に実施したアンケート調査などからまとめている各国ランキングが参照されることが多い(キリンビール大学経済学部)。

 ここでは、この資料ではなく、FAOがまとめている各国の食料需給表データから1人当たり日供給量(グラム)を使用した。食料需給表ベースなので、生産、輸出入、在庫変動、流通ロスなどを組み合わせたデータである点に留意が必要である。国際機関が加盟国から得ている情報から作成されているのでそれなりに信頼がおけるデータである。各国のビール協会と各国政府のどちらの情報がより正確かは微妙なところだ。巻末にFAOデータとキリンデータの対照表を掲げておいた。

 最も1人あたりの消費量が多いのはアイルランドの日量411gであり、チェコの383gが続いている。この2か国が他国をかなり凌駕しており、ビール好きの国民として目立っている。以下、オーストリア、エストニア、リトアニア、ポーランド、ドイツ、オーストラリアと続いており、中東欧諸国の消費量が多い点が地域的特徴となっている。

 日本では香川がうどん県として知られるように、ヨーロッパではチェコがビール国として知られている。日本で最も一般的な黄金色のビールは、チェコのプルゼニ(ピルゼン)で発明されたピルスナーというタイプである。世界で醸造されているビールの主流も、このピルスナーといわれている。

 日本でビール国と言えばドイツであるが、ドイツでは1516年に制定された「ビール純粋令」が今も有効で、ビールと名乗れるのは麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料としたものと定められている。また、ミュンヘンで毎年開かれるオクトーバーフェストは、日本でも屋外の飲食イベントの名称として定着している。

 アイルランドはアイリッシュパブでのギネスなど黒ビールの消費が名高い。ビール祭りとして名高いミュンヘンのオクトーバーフェストなどの印象からビールと言えばドイツを連想するが、ドイツへ行くとビールの本場はチェコだと思われている。確かにチェコのビール消費量はドイツを大きく上回っている。

 ドイツのお隣のオーストリアで一般的に飲まれているのは、南ドイツ発祥のラガービールといわれている。赤銅色のラガービール(ウィンナーラガー)は、首都ウィーンで発明された。また、ビールをレモネードで割った「ラードラー(Radler)」も好まれている。

 日本のビール会社のキリンとアサヒが現地ビール会社を傘下に収めつつあるオーストラリアもビール大国として知られる。「豪州では社交の場でビールは欠かせない。シドニー市内のパブで働くジャック・ラーキンズさん(22)は「『ビールを飲みながら話をしよう』となることが多い。それが豪州の文化」と胸を張る。今年5月に亡くなったホーク元首相はビールの早飲みで「ギネス記録」を樹立したことで知られ、人気の政治家だった」(ヤフー=時事2019.8.26)。

 日本人も自分ではビール好きであるかのように思っているが、主要国におけるランキングで見ると日本は77gで38位とかなり少ない方である。韓国、中国、台湾といった東アジア諸国は似たようなレベルである。

 イタリアやフランスも日本と大差ないが、こちらはワインの方が酒の中心だからであろう(下図参照)。

 一方、主要国の中でインドネシア、サウジアラビアといったイスラム圏やインドはほとんどビールが消費されていない。これはアルコールを禁じる宗教的な理由に酔うものだと考えられる。

 こうした事情からビールの消費量は各国で大きな差があることが分かる。

 ビール消費の世界分布を概観するために世界マップを掲げておいた。中東欧を中心に、やはり、北半球と南半球の寒冷地方でビール消費が多く、赤道周辺の暖かい地域ではビール消費が少ないという傾向が明らかである。

 気候、由来、宗教、経済発展度が総合的にビール消費に影響していることがうかがわれるのである。

 日本の場合は、飲酒好きだがアルコールには弱いという体質的な要素も影響していると思われる(図録1970、図録1972参照)。

 最後に、FAOデータとキリンデータの消費量ランキングを対照させた表を以下に掲げた。アイルランドの順位が前者で1位、後者で11位と大きく異なっているのが目立っている。どちらが正しいのだろう。

 それ以外の主要国では両データでそれほどの違いはないようだ。

1人当たりビール消費量のランキング比較(2013年)
順位 ビール供給量 ビール消費量
国名 g/capita
/day
国名 ml/capita
/day
1 アイルランド 411 チェコ 403
2 チェコ 383 ナミビア 299
3 オーストリア 293 オーストリア 290
4 エストニア 292 ドイツ 279
5 リトアニア 282 ベリーズ 271
6 ポーランド 269 エストニア 258
7 ドイツ 257 ポーランド 252
8 オーストラリア 244 リトアニア 247
9 ルクセンブルク 239 ルーマニア 219
10 ガボン 228 フィンランド 219
11 ルーマニア 221 アイルランド 216
12 フィンランド 220 スペイン 214
13 米国 216 米国 208
14 クロアチア 214 ガボン 205
15 パナマ 213 オーストラリア 205
16 ラトビア 208 スロベニア 203
17 ブルガリア 207 クロアチア 203
18 ベルギー 207 ブルガリア 203
19 スペイン 205 スロバキア 203
20 スロベニア 204 オランダ 200
21 アイスランド 199 ベルギー 197
22 スロバキア 195 パナマ 195
参考 韓国 114 韓国 127
日本 77 日本 118
(注)消費量は元資料のリットル/年から換算。供給量についてナミビアは165、ベリーズは100、オランダは146
(資料)供給量はFAOSTAT、消費量はキリンビール大学

 冒頭のランキング図で取り上げた主要国50か国は、図の順にアイルランド、チェコ、オーストリア、エストニア、リトアニア、ポーランド、ドイツ、オーストラリア、ルクセンブルク、フィンランド、米国、ラトビア、ベルギー、スペイン、スロベニア、アイスランド、スロバキア、英国、ブラジル、ニュージーランド、ハンガリー、ロシア、デンマーク、南アフリカ、カナダ、スイス、スウェーデン、オランダ、メキシコ、ノルウェー、ポルトガル、アルゼンチン、チリ、韓国、中国、ギリシャ、タイ、日本、台湾、イタリア、フランス、香港、イスラエル、ベトナム、トルコ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、インド、サウジアラビアである。


(2019年8月26日収録、2021年4月13日各国ビール事情補訂)


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