最近3か年平均の世界各国マップは図録0100参照。

日本の状況

 主要国の食料供給カロリー(1人1日当たり)の推移を1960年代から追った。データはFAOSTATによる。

 農水省の食料需給表によれば、我が国の食料供給カロリー(1人1日当たり)は2017年度に2,673キロカロリー(酒類を除くと2,445キロカロリー)と1996年度に2,822キロカロリー(同2,670キロカロリー)のピークを記録した後低下傾向にある。

 最近の日本の摂取カロリーの動きは図録0202参照。

 日本の供給カロリーは、農林水産省が公表している食料需給表と国際比較・各国比較ができるFAOSTAT(FAOのデータベース)のデータとでは、前者の方がやや低い数字となっていた。これは、対象品目などの差によるものと考えられる(注)。近年では、農水省データとFAOデータはほぼ一致しているが、これは、アルコール飲料(酒類)からのカロリーに関する農水省データがかなり増加し、以前は他の品目同様に下回っていたのが、近年はFAOデータを大きく上回るようになったからである。

(注)従来は「食料需給表が消費時点での消費ロスを差し引く純食料ベースであるのに対して、FAOSTATの場合は、流通におけるロスは差し引いているものの消費ロスは控除していない粗食料ベースであるため」としていたが、実際は、農水省はFAOの基準に沿って粗食料から純食料へと消費ロス(小麦粉への加工で失われる部分や捨てられる魚の骨は該当し、食べ残しやペット餌は非該当)を控除しており、両者に概念上の差はないことになっている。それでも農水省データの方が小さく出る傾向がある(あった)のは食料向けの品目や流通・消費ロスなどを厳しめに考えているからと思われる。

 FAOベースでも、日本の場合、1989年の2,969キロカロリーをピークに供給カロリーは横ばい、そして低下傾向に転じている。米国などの高所得国がなお供給カロリーの多さに悩み、肥満対策が大きな課題となる中、優等生的な推移を示しているといえる(脂質、塩分のとりすぎといった細かい栄養チューニングの課題はあるが)。
欧米諸国の状況

 全体として増大傾向を示している欧米諸国の供給カロリーの推移において、最も供給カロリーが多い国は、1960年代は英国・フランス、1970年代はイタリア、1980年代はフランス、そして1990年代以降は米国と変遷してきている。

 ヨーロッパを代表する食の大国であるフランスとイタリアのカロリー供給量は1990年代に米国と逆転し、その後は、少し量を抑えはじめている傾向にある。フランス料理では1970年台からヌーベル・キュイジーヌ(新料理)と称して、調理時間の短縮、蒸しの導入、生クリームやバターを余り使わないソース、量も少な目の料理法が唱えられた。日本料理の影響もあったといわれる。またイタリアでは1980年代半ばにローマでのマクドナルド開店への反発からはじまりスローフード運動が盛り上がり、1989年にはパリで国際スローフード協会が設立され世界に普及している。1986年BSE発見(英国)以来肉から魚へのシフトも生じている(図録0270参照)。量より質、ファーストフードよりはスローフードという食への志向変化がフランスとイタリアのカロリー量の動きにも反映していると考えられる。

 米国の場合、1960年代には欧州諸国と比べてもことさら大食ではなかったが、1990年代以降は、供給カロリーの増加が特に目立っている。明らかに食べ過ぎの状態であり、車社会故の運動不足と相俟って、世界最大の肥満大国という憂うべき状況につながっている(図録22202240参照)。このため国全体で対策が講じられ、2000年代の半ば頃からは供給カロリーが低下に転じている。

 ところ、2010年代に入ると、米国やドイツ、フランスでは、再度、供給カロリーが上昇傾向に転じている。英国は横ばい、イタリアは日本と同様低下傾向であるのと対照的である。
アジア諸国の状況

 アジアの他の国では、日本に遅れて高度経済成長を実現した韓国では、1970年代に入って日本を追い越し、70年代半ばには一挙に3,000キロカロリーを超え、78年に3,177キロカロリーのピークに達したのが目立っている。1980年代〜90年代は3,000キロカロリーレベルを上下してのち、2008年からは再度過去のピークを上回り、毎年、過去最多を記録している。最近は再度3,000キロカロリーをかなり上回っている。図録0100のようにアジアで中国と並んで3,000キロカロリーを超えており、アジアの大食国として目立っているが、その割には韓国で肥満の割合が高くなかった(図録2220参照)。しかし、最近は、食べすぎ、太りすぎが懸念される状況だと思われる。自殺率も最近になって先進国トップとなっていることから見ると、ストレス太りの側面があるのではなかろうか(図録2774)。

 北朝鮮についての国際比較データは少ないが供給カロリーについてはFAOに基礎データの報告があるらしくデータが得られるので図示した。1960年代初めには韓国と供給カロリーのレベルはそう異ならなかったが、その後、1980年代以降、食料生産の停滞や飢饉の発生を示すと思われる大きな供給変動が生じ、現在においても、なお2,000キロカロリー台と、発展するアジアの中では特異というべき低い水準で推移している。1978年に北朝鮮に拉致され2002年に帰還した蓮池薫氏は北朝鮮の食糧事情についてこういっている(東京新聞2016年7月3日)。「拉致された70年代は、まだ配給で食べていける時代でした。ところが90年代に入る前から食糧事情がどんどん悪くなりました。91年、旧ソ連が崩壊。92年に韓国と国交を結んだ中国とも疎遠になり、自力での外貨稼ぎを迫られたのです。輸出できる有力商品は鉄鉱石などの鉱物に限られている。当時、北朝鮮の人々は「貨車を連ねて運び出し、戻ってくるのは手の上に載るほどの小さな商品」と自嘲していました。他の社会主義国に裏切られたという大変な危機感と不安が北朝鮮の社会を覆い、対外政策が大きく変化します。拉致問題が動いたのは、その結果です。日本の経済協力への強い期待があったと考えられます」。最近の状況については「食糧事情は少しは改善しても一般国民の生活は食べ物の確保に苦しむ状態が続いていると想像される」とも言っている。

 韓国に遅れて高度経済成長期に突入した中国では2004年にははじめて日本を追い越し、1960年当時の2倍近くの水準に到達したのち、2010年には3,000キロカロリーを越えている。13億人の人口大国が1人当たりで日本以上の食料消費を行い、しかも畜産消費の割合が高くなった結果、世界全体に大きな影響を与え、穀物価格高騰にもつながる場合がある状況となっている(図録参照03004710)。

 なお、中国の1960〜70年代(特に1960年代前半)は現在の北朝鮮以下のレベルとなっていたが、この状況は1959〜61年の大飢饉やその後の文化大革命による落ち込みの側面が大きかった点を踏まえておく必要がある(それ以前はもう少し供給カロリーが高かった点については下表参照)。この時期、上海で子どもだった中国人評論家(日本で活躍中)はこう書いている。「1950年代以前に生まれた中国人にとって、「三年自然災害」という言葉は忘れられない。それは洪水や日照りといった異常気象の被害というよりも、むしろ「飢饉」というイメージが強い。(中略)「三年自然災害」という言葉は1959年から3年間続いた自然災害の時期を指しているが、実際は3年で終わったのではない。1963年になっても、状況はまだかなり深刻であった。自由市場に食材がやや増え始めたのは1964年頃であった。それまで、米や小麦粉のみならず、肉や野菜、豆腐などの副食品も極度に欠乏していた。(中略)「民は食を以て天となす」という名文句がある。為政者にとって、「食」の問題はまず主食の米や小麦粉の配給である。三年自然災害のときから80年代まで、中国の都市部ではすべての穀物は配給制になっていた。」(張競「中国人の胃袋-日中食文化考」バジリコ、2007年)なお、この大飢饉については、図録8210、この時の中国人の食生活の状況は図録0300参照。

1人1日当たり供給カロリー(戦前及び1950年頃)
資料 戦前 1950年
FAO(1954) 中国(22省) 2,230 2,120
フランス 2,830 2,763
ドイツ 3,070 2,757
イタリア 2,520 2,433
日本 2,180 2,077
スウェーデン 3,120 3,177
英国 3,120 3,087
米国 3,150 3,170
農政調査委
員会(1977)
日本需給表 2,122 1,930
(注)酒類を含む。戦前は基本的には1934〜38年平均であるが国によって多少前後する。1950年は1949〜51年平均であるが中国は1947/48年数値。中国22省は満州、新疆、チベットなどを除く本土部分。
(資料)FAO(1954), Yearbook-Production 1953、農政調査委員会(1977)「改訂日本農業基礎統計」

 経済成長とともに供給カロリーが増加する一方で食料の多様化が進展する。日本と韓国と中国といった米食民族の食料の多様化を示す指標として図録0200-1に各国の供給カロリーに占める穀物の比率の推移を示した。特に中国の食の多様化については、図録0300「中国の食料消費対世界シェアの推移」を参照のこと。

(2004年6月21日サブページ、コメント追加、2008年10月25日更新、2010年1月13日・7月1日更新、7月24日コメント加筆、2011年4月20日張競引用追加、2012年7月17日更新、2014年8月11日更新、2015年12月10日更新、本文(注)及び戦前・1950年表追加、2016年7月3日蓮池氏発言引用、2017年2月13日更新、2020年1月10日更新、2022年1月18日更新、2023年4月29日更新)


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